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Imaginary Conversation

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Exploring the World Through Dialogue.

美輪明宏と河合隼雄 ― 日本人が忘れてしまった感覚

December 23, 2025 by Nick Sasaki Leave a Comment

美輪明宏-河合隼雄

もし美輪明宏と河合隼雄が、日本人が忘れてしまった感覚について語り合ったら。

総序文

耳を澄ますという行為から、すべては始まる

この対話は、答えを与えるために始まったものではない。
何かを教え、説得し、導くための時間でもない。

ただ 思い出すために、静かに座った。

美輪明宏と河合隼雄。
一人は、美と痛みと生を、その身体で引き受けてきた人。
もう一人は、日本人の無意識と神話を、言葉にならない場所から見つめ続けてきた人。

二人のあいだにあるのは、議論ではなく、呼吸だった。
主張ではなく、沈黙だった。

日本人は、かつて
虫の声を「音」ではなく「気配」として聞いていた。
死を「終わり」ではなく「移動」として感じていた。
美を「飾り」ではなく「生き方」として抱いていた。

しかし、いつの間にか私たちは、
早さと正しさと便利さの中で、
その感覚を後ろに置き去りにしてきた。

この対話は、
失われたものを嘆くためのものではない。
過去へ戻るためのものでもない。

いま、ここで、もう一度耳を澄ますための時間である。

答えは、ページの中にはない。
それぞれの暮らしの中に、すでにある。

(本稿に記されている対話はすべて仮想のものであり、実在の人物・発言とは関係ありません。)


Table of Contents
もし美輪明宏と河合隼雄が、日本人が忘れてしまった感覚について語り合ったら。
Topic 1|日本人は何を「感じ取る民族」だったのか
Topic 2|美とは何か、生きるとは何か
Topic 3|戦後日本で失われた魂の感覚
Topic 4|死は終わりではないという日本的理解
Topic 5|これから日本人は何を思い出すべきか
最終エピローグ

Topic 1|日本人は何を「感じ取る民族」だったのか

虫の声・言霊・自然との対話

導入(ナレーション)

薄曇りの午後。
風の音が、まだ言葉になる前の場所から流れ込んでくるような静かな部屋。
対話は、議論のために始まったのではない。
思い出すために始まった。

河合隼雄

美輪さん、今日は「日本人が本来、どのように世界を感じ取ってきたのか」からお聞きしたいと思います。
理屈や説明ではなく、もっと手前の――感覚の話として。
今の日本人がほとんど忘れてしまったものは、何だったのでしょうか。

美輪明宏

「感じ取る」ということ自体を、私たちは忘れてしまったのね。
見る、聞く、考える……そういう段階に行く前の、ただ在るものに身を委ねる感覚。

昔の日本人はね、自然を「対象」として見ていなかったのよ。
山も、川も、虫も、風も、全部こちらを見ていた。
だから耳を澄ますというより、向こうから語りかけられていたの。

虫の声が聞こえる、という話があるでしょう。
あれは能力でも才能でもないの。
人間が本来持っていた状態なの。

河合隼雄

「向こうから語りかけられていた」というのは、とても象徴的な言い方ですね。
現代人は、世界を常に“こちらから把握する側”に立っています。
その立ち位置の違いが、大きいのでしょうか。

美輪明宏

ええ。立ち位置がすべてよ。
今の人間は、自然を「使うもの」「管理するもの」として見ているでしょう。
すると、自然は黙るの。
だって、命として扱われていないんですもの。

昔は違った。
虫の声を聞くとき、人は「意味を探す」なんてことをしていなかった。
意味が勝手に胸に落ちてきたの。

寂しさ、兆し、喜び、警告……
それは言葉になる前の言葉。
だから日本語には、はっきりした定義を持たない美しい言葉が多いのよ。

河合隼雄

その「言葉になる前の言葉」という感覚は、日本語と深く関係しているように思います。
言霊という考え方も、そこにつながっていくのでしょうか。

美輪明宏

もちろんです。
日本語は、単なる記号じゃないの。
音そのものが、世界と共鳴するようにできている。

「せせらぎ」「こもれび」「しんしん」
意味を説明しなくても、音を聞くだけで情景が立ち上がるでしょう。

こういう言葉で育つと、人は自然を“分析”しなくなる。
代わりに、同調するの。

だから虫の声も、雑音じゃなくなる。
相手の話として聞こえるの。

河合隼雄

心理学の立場から見ると、日本人は「世界と自分を分けない構造」を長く持っていたように思います。
しかし近代以降、その構造が急激に壊れました。
その断絶は、どこで起きたと感じておられますか。

美輪明宏

戦後です。はっきり言って。
忙しくさせられたのよ、日本人は。

考える暇も、感じる暇も、立ち止まる暇も奪われた。
朝から晩まで動かされて、
静かに呼吸をする時間すら罪悪のように扱われるようになった。

静けさを失うとね、自然の声は聞こえなくなるの。
すると人は、他人の声ばかり気にするようになる。
評価、空気、常識……
それは自然の代わりに、社会に支配される生き方よ。

河合隼雄

自然と切断された人間は、不安を抱えやすくなりますね。
自分の内側に基準がなくなるからだと思います。
それでも、取り戻す道は残されているのでしょうか。

美輪明宏

ええ、残っているわ。
だって完全に失われたわけじゃないもの。

窓を開けて、虫の声を聞いてみなさい。
聞こえたら、それでいい。
意味が分からなくてもいいの。

聞こうとする姿勢そのものが、もう回復の始まりなのよ。

思い出すだけでいいの。
私たちは、自然と会話できる器を持って生まれてきたんだって。

余韻(ナレーション)

対話は、結論を出さない。
ただ、耳を澄ます場所を示しただけだった。

外では、かすかな音が鳴いている。
それを「雑音」と呼ぶか、「声」と呼ぶか。
その選択は、今も静かに私たちの前に置かれている。

Topic 2|美とは何か、生きるとは何か

苦しみを通過した者だけが知る美

導入(ナレーション)

夕暮れが近づき、光は少しずつ色を失っていく。
しかし不思議なことに、影が深まるほど、輪郭ははっきりしてくる。
美とは、明るさの中にだけ宿るものではない。
むしろ――暗さを知ったあとに、初めて立ち上がるものなのかもしれない。

河合隼雄

美輪さんは長い間、「美」というものを、人生そのものと結びつけて語ってこられましたね。
装飾や快楽としての美ではなく、生き方としての美。
その美は、どこから生まれてくるものなのでしょうか。

美輪明宏

苦しみを通らずに、美は生まれません。
これはね、精神論でも道徳でもないの。

人は、傷ついたときにしか、
自分がどこまで壊れ、どこから壊れないかを知らない。

苦しみというのは、神様からの罰ではないのよ。
余分なものを削ぎ落とす時間なの。

河合隼雄

心理学でも、苦しみを「避けるべき異常」として扱いすぎると、
人はかえって弱くなると言われます。
現代社会は、痛みを感じないようにすることに力を注ぎすぎているのかもしれません。

美輪明宏

ええ、その通り。
痛みを感じない社会は、深さを失う社会です。

今はすぐに忘れさせるでしょう。
すぐに次へ行かせる。
すぐに立ち直れ、前を向け、と。

でもね、人の魂はそんなに急げないの。
魂には滞在時間が必要なのよ。

河合隼雄

「滞在時間」という言葉、とても大切ですね。
悲しみや喪失の中に、十分に留まらないと、
その体験が人格の一部にならない。

美輪さんは、ご自身の人生の中で、
その「留まる時間」を長く過ごされたように感じます。

美輪明宏

逃げられなかっただけよ。
逃げ場がなかった。

でもね、逃げなかったおかげで、
人の痛みが他人事でなくなった。

美というのは、結局、
「分かる」という能力なの。

分かる、というのは、
頭で理解することじゃない。
同じ場所に立てるということ。

河合隼雄

その意味で言うと、美は共感の深さとも言えそうですね。
表現者にとって、美とは「伝えること」でもありますが、
それは同時に「受け取る力」でもある。

美輪明宏

そう。
自分の中に痛みがなければ、
他人の痛みを受け取れない。

だから私は、
「苦しまなくていい人生」なんて、
少しも羨ましいと思わないの。

苦しみがあったから、
人の涙が分かる。
沈黙の意味が分かる。
言葉にならない声が聞こえる。

それが美なの。

河合隼雄

現代では、美が「効率」や「成果」と結びつけられがちです。
美しく生きることが、成功や評価と同一視される。
そのことについては、どうお感じになりますか。

美輪明宏

まったく逆です。
評価される美なんて、一番脆い。

本当の美は、
誰にも見られなくても、
拍手されなくても、
そこに在り続けるもの。

孤独な夜に、
それでも人を憎まないこと。
裏切られても、
世界を信じること。

そういう姿勢が、
後から「美しかった」と呼ばれるだけ。

河合隼雄

美とは結果ではなく、姿勢。
生きる態度そのもの、ということですね。

美輪明宏

ええ。
だから私は、美を語るとき、
必ず「生きる」という言葉と一緒になる。

生きるというのは、
楽しいことを集めることじゃない。
引き受けることなの。

自分に与えられた人生を、
逃げずに引き受ける。
その覚悟が、顔つきや声や佇まいに現れる。

それが、人が最後に残す美よ。

河合隼雄

その美は、次の世代にどう受け継がれていくのでしょうか。
言葉で教えることは難しそうです。

美輪明宏

教えられません。
見て、感じるしかない。

だから大人は、
格好いい生き方をしなきゃいけないの。
立派じゃなくていい。
正直であればいい。

子どもは、
言葉じゃなく、
生き様を見て育つから。

余韻(ナレーション)

部屋の中に、しばらく沈黙が落ちる。
その沈黙は、重くはない。
むしろ、何かが静かに定着していくようだった。

美とは、飾ることではない。
生き切ろうとする、その姿そのものなのだと。

Topic 3|戦後日本で失われた魂の感覚

忙しさ・合理性・恐れ

導入(ナレーション)

外はすっかり暗くなっている。
街の光は増えたのに、闇は薄まらない。
むしろ、人の内側に影が集まってきたようにも見える。
戦後という時間は、日本人に何を与え、何を奪ったのか。
その問いは、今も終わっていない。

河合隼雄

美輪さん、先ほど「戦後にはっきりとした断絶があった」とおっしゃいましたね。
戦後日本で、最も大きく失われたものは何だったとお感じになりますか。

美輪明宏

静けさです。
そして、それを大切にする心。

戦争に負けたことで、日本人は「間違っていた」と思わされた。
文化も、精神も、生き方も。
だから一度、全部を疑うようになったのね。

その結果、人は自分の内側よりも、
外の基準を見るようになった。
正しいか、効率的か、役に立つか。

でも魂というのは、
役に立たない時間の中でしか育たないのよ。

河合隼雄

心理学的に見ると、戦後日本は
「自分の価値判断を持つこと」に強い不安を抱えるようになった社会とも言えます。
それが“忙しさ”という形で現れているのかもしれません。

美輪明宏

ええ。忙しさは、恐れの裏返しです。

立ち止まると、
考えてしまうでしょう。
感じてしまうでしょう。
失ったものや、怒りや、悲しみを。

だから止まらない。
次から次へと動く。
動いていれば、自分と向き合わなくて済むから。

でもね、それを続けると、
魂が置き去りになる。

河合隼雄

魂が置き去りになる、という表現は、とても重いですね。
現代人の多くが「自分が分からない」と感じている背景には、
その断絶があるように思います。

美輪明宏

自分が分からないのは、
自分の声を聞いていないから。

戦後、日本は「考える国」になろうとした。
でも「感じる国」であることを忘れてしまった。

感じることは、
時に非合理で、
時に非効率で、
時に説明がつかない。

だから排除されたの。

河合隼雄

合理性は、文明を前に進める力でもありますが、
同時に切り捨てる力でもありますね。
日本人は、切り捨ててはいけないものまで切ってしまったのでしょうか。

美輪明宏

ええ。
一番切ってはいけなかったものを。

それはね、
「自分は自然の一部だ」という感覚。

自然から切り離された人間は、
支配されやすくなる。
恐れやすくなる。
比較しやすくなる。

だから権力にとっては、
とても扱いやすい人間になるの。

河合隼雄

自然と切断された人間は、
代わりに「社会」と過剰につながろうとしますね。
空気、同調、評価。
それが安心の代用品になる。

美輪明宏

そう。
でもそれは、本物の安心じゃない。

本当の安心は、
自然とつながっているという感覚からしか生まれない。

空を見上げる。
風を感じる。
虫の声を聞く。

それだけで、
人は「生かされている側」に戻れるの。

河合隼雄

戦後日本は、
「生きる」というより
「生かされないようにする」社会になった、
とも言えるかもしれません。

美輪明宏

ええ。
だから皆、疲れている。

豊かになったはずなのに、
心は貧しくなった。

物は増えたけれど、
耐える力、待つ力、信じる力が減った。

これは衰退よ。
経済の話じゃない。
魂の話です。

河合隼雄

それでも、日本人の中に残っているものはあるでしょうか。
完全に失われたわけではない、という感触もあります。

美輪明宏

残っているわ。
だから私は、まだ希望を持っている。

ふとした瞬間に、
理由もなく涙が出る。
夕焼けを見て立ち止まる。
虫の声に懐かしさを覚える。

それはね、
魂がまだ覚えている証拠。

忘れさせられただけで、
失ったわけじゃない。

河合隼雄

思い出すことができれば、
再びつながることもできる、ということですね。

美輪明宏

ええ。
取り戻すというより、
思い出すの。

新しい何かを学ぶ必要はない。
元に戻るだけ。

静かに、
ゆっくり、
呼吸を深くする。

それだけで、
魂はちゃんと帰ってくるわ。

余韻(ナレーション)

外の闇は深いままだが、
不思議と、息苦しさはない。

失われたものは、
どこかへ消えたのではなく、
ただ呼ばれるのを待っているだけなのかもしれない。

Topic 4|死は終わりではないという日本的理解

祖霊・夢・無意識の世界

導入(ナレーション)

夜が深まるにつれ、音は少なくなる。
しかし静けさは、無ではない。
むしろ、聞こえなかったものが近づいてくる時間だ。
生と死の境目が、最も薄くなる場所で、対話は続く。

河合隼雄

美輪さん、日本人は昔から、死を「完全な終わり」とは捉えてこなかったように思います。
祖霊や夢、気配といった形で、死者は今も生者の世界に関わっている。
この感覚は、どこから来ているのでしょうか。

美輪明宏

日本人にとって、死は「移動」なの。
消滅ではない。
形を変えて、別の場所に在るという感覚ね。

だから昔の人は、
死者を遠くへ追いやらなかった。
山に祀り、家に迎え、夢の中で語り合った。

死んだら終わり、なんて考え方は、
とても近代的で、とても乱暴よ。

河合隼雄

心理学の世界でも、夢に現れる死者は
単なる記憶ではなく、人格の一部として生き続けている存在だと考えられています。
日本人は、その感覚を日常の中で自然に受け入れてきたのかもしれません。

美輪明宏

ええ。
夢というのは、無意識と無意識が出会う場所。

生きている人の無意識と、
亡くなった人の無意識が、
そこでそっと触れ合う。

だから夢の中の死者は、
説教しないし、説明もしない。
ただ、佇んでいたり、微笑んでいたりするでしょう。

あれは幻ではないの。
対話なのよ。

河合隼雄

現代では、そのような体験を語ると
「非科学的」として退けられがちです。
それによって、私たちは何を失っているのでしょうか。

美輪明宏

死を恐れる力を失ったの。

死を恐れる、というのは、
怖がることではないのよ。
敬うこと。

死を遠ざけると、
生も薄っぺらくなる。

いつか終わるからこそ、
一瞬が大切になる。
再び会えると信じているからこそ、
別れが優しくなる。

河合隼雄

死後の世界をどう考えるかは、人それぞれですが、
日本的な死生観には
「断絶しない」という一貫した特徴がありますね。

美輪明宏

ええ。
生と死は、一直線じゃない。
円なの。

祖先がいて、私たちがいて、
また次へ渡していく。

だから「供養」という言葉がある。
あれは死者のためだけじゃない。
生きている者の心を整える行為なの。

河合隼雄

供養は、悲しみを終わらせる儀式ではなく、
悲しみと共に生きていくための作法、とも言えそうですね。

美輪明宏

そう。
忘れなくていいの。
忘れようとするから、苦しくなる。

大切なのは、
共に生きる形を変えること。

声が聞こえなくなっても、
姿が見えなくなっても、
影響は消えない。

それを感じ取れるかどうかが、
その人の感性なの。

河合隼雄

日本人は、死者と共に生きる民族だった。
しかしその感覚も、薄れてきているように感じます。

美輪明宏

忙しすぎるのよ。
静かに思い出す時間がない。

死者は、
急かされると近づいてこない。

夜、ふと立ち止まったとき、
風が止んだとき、
虫の声が途切れたとき。

そういう「隙間」に、
あちらの世界は顔を出すの。

河合隼雄

死を感じることは、
生を深く感じることでもある。
その回路を、私たちはもう一度開く必要がありそうですね。

美輪明宏

ええ。
死を怖がらなくなった社会は、
生を粗末にする。

命が有限だと知っている人だけが、
他人の命を大切にできる。

死は敵じゃない。
最も厳しく、最も優しい教師よ。

余韻(ナレーション)

沈黙の中に、
誰かの気配が溶け込んでいるような錯覚が残る。

それは恐れではなく、温度だった。
生と死は、背中合わせではなく、
同じ円の上に在るのかもしれない。

Topic 5|これから日本人は何を思い出すべきか

役割としての日本、優劣ではなく使命

導入(ナレーション)

夜は最も深く、しかし不思議と重くはない。
すべてを語り終えたあとに訪れる沈黙は、終わりではなく始まりに近い。
問いは、これ以上増やすためではなく、
それぞれが持ち帰るために、最後の形を取ろうとしている。

河合隼雄

ここまで、日本人の感覚、美、戦後の断絶、そして死生観について伺ってきました。
では最後に、美輪さんにお聞きしたい。
これからの日本人は、何を新しく学ぶべきか、ではなく――
何を思い出すべきなのでしょうか。

美輪明宏

役割です。
それだけ。

日本人が優れている、なんて話じゃない。
この地球には、それぞれの民族に役割があるの。

争うためでも、比べるためでもない。
分担なのよ。

河合隼雄

役割、という言葉はとても重要ですね。
近代以降、私たちは「個人の成功」や「国の強さ」を軸に物事を考えてきましたが、
役割という視点は、そこから少し距離を取ります。

美輪明宏

ええ。
アフリカの人々には、大地のエネルギーを守る役割がある。
海の民には、海と共に生きる知恵がある。

そして日本人には、
自然の声を受け取り、意味として伝える器が与えられている。

それは威張ることじゃない。
責任なの。

河合隼雄

自然の声を「意味として伝える」というのは、
まさに言霊や感性の話につながりますね。

美輪明宏

そう。
自然はね、いつも語っているの。
ただ、人間が聞かなくなっただけ。

山が崩れる前、
水が濁る前、
人の心が荒れる前。

必ず、兆しはある。

それを「異変」として恐れるのではなく、
「知らせ」として受け取る民族。
それが日本人だった。

河合隼雄

しかし現代日本は、
物質的な豊かさを追い求める中で、
自然を「沈黙させる側」に回ってしまったようにも見えます。

美輪明宏

ええ。
足りているのに、まだ欲しがる。
道があるのに、さらに削る。
便利なのに、もっと早さを求める。

その結果、
自然とのバランスが崩れた。

そして皮肉なことに、
物が溢れてから、心が空っぽだと気づいたのよ。

河合隼雄

心理学でも、過剰な充足は空虚感を生みやすいと言われます。
満たされすぎると、人は意味を失う。

美輪明宏

だから今、必要なのは成長じゃない。
回復。

立ち止まること。
余白を持つこと。
無駄を許すこと。

日本人は、本来それが得意だったのに、
いつの間にか一番苦手になってしまった。

河合隼雄

それでも、美輪さんは希望を語られますね。
なぜ、そう言い切れるのでしょうか。

美輪明宏

魂はね、忘れても消えないから。

空の上では、日本人に生まれたい魂が
長い列を作って並んでいる、という話があるでしょう。

それはなぜか。

この地球で、
自然と会話できる可能性を持って生まれられる場所だから。

日本語を母語として育つ、ということ自体が、
すでに切符を持っているということなの。

河合隼雄

切符は、もう手にしている。
あとは使うかどうか、ということですね。

美輪明宏

ええ。
難しいことは何もない。

窓を開けて、
風を感じて、
虫の声に耳を澄ます。

もし、それがまだ「声」として聞こえるなら、
あなたの中の日本人は、ちゃんと生きている。

その感覚を、大切になさい。

河合隼雄

それは、個人の救いであると同時に、
文化の回復でもありますね。

美輪明宏

そう。
一人が思い出せば、
必ず誰かに伝わる。

大きな運動はいらない。
革命もいらない。

静かな回復でいいの。

余韻(ナレーション)

対話は、ここで終わる。
しかし問いは、それぞれの生活の中へと移っていく。

今夜、窓を開けたとき。
ふと立ち止まったとき。
理由もなく懐かしさが胸に広がったとき。

その瞬間こそが、
思い出すという行為なのかもしれない。

最終エピローグ

窓を開けたその瞬間に

対話は、ここで終わる。
しかし、それは区切りではない。

夜、ふと窓を開けたとき。
忙しさの合間に、立ち止まったとき。
理由もなく、胸の奥が静かに震えたとき。

その瞬間こそが、
この対話の続きなのだ。

日本人として生まれたということは、
特別であるという意味ではない。
ただ、ひとつの役割を預かっているということ。

自然の声を、
そのままのかたちで受け取り、
意味として、祈りとして、次へ手渡すこと。

それができるかどうかは、能力ではなく、姿勢で決まる。
思い出そうとするかどうか。
耳を澄ますかどうか。

もし、虫の声がまだ「声」として聞こえるなら。
もし、沈黙が怖くないなら。
もし、死を想うことで生が深まるなら。

あなたの中の日本人は、ちゃんと生きている。

大きな運動は、いらない。
声高な主張も、いらない。

静かに、深く、呼吸をする。
それだけで、回復は始まる。

この対話が、
あなたが自分自身に戻る、
その小さな入口になりますように。

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