
はじめのことば
先日、別の弟子が私にこう聞いたんです。
「一人さん、もし空から巨大な惑星が迫ってきたら、どうしますか?」ってね。
普通なら「終わりだ!」って泣き叫ぶでしょう。
でも私はね、こう言うんです。
「いやぁ~、宇宙一の大スクリーンで上映される“レミナ接近ライブ”だよ! しかも入場料タダ!」って。
恐怖はね、心を小さくする。でも感謝は心を大きくする。
この物語は“終わりの日に人はどう生きるか”を教えてくれる、大切な教科書なんです。
(本稿に記されている対話はすべて仮想のものであり、実在の人物・発言とは関係ありません。)
第二幕:惑星が星々を喰らう

夜空に異変が起きた。ある日、天文学者が新しい天体を発見し、それは次第に「地球に向かって近づいている」ことがわかった。巨大な赤い惑星――レミナ。その姿は空を覆うように迫り、やがて世界中の人々を恐怖に陥れた。
人々は町の広場に集まり、空を見上げて叫んでいた。
「星が近づいてくる!」
「どうしてこんなことが起きるんだ!」
遠くの国でも同じようにパニックが起き、ニュースは連日「地球滅亡」を予言していた。
その群衆の真ん中に、ひとりの少女――レミナ博士の娘、レミナが立っていた。彼女は父がその星に自分の名前をつけたことから、「破滅を呼ぶ少女」として人々の憎悪と恐怖の矛先を向けられていた。
「レミナのせいだ!」
「彼女を差し出せば星は退くかもしれない!」
怒号とともに人々は彼女に詰め寄り、恐怖と混乱は極限に達していた。
その時だった。場違いなほど明るい声が、広場に響いた。
「おやおや! みんな空を見て大騒ぎしてるけど、まるで“巨大な花火大会”だね! ただし、この花火はサイズがでかすぎるけどさ!」
群衆が振り返ると、白い帽子をかぶった斉藤一人さんが、にこにこと歩いてきた。
「それにしても、この惑星の名前が“レミナ”って、ちょっと可愛すぎないかい? 見た目は恐ろしいのに、名前だけ聞くとアイドルグループの新人みたいだよ!」
緊張に包まれた広場に、不意に笑いが生まれた。人々の顔に少しだけ和らぎが戻る。
レミナは怯えた目で一人さんを見た。
「どうして…怖くないんですか? あんなものが迫ってきているのに…」
一人さんはにっこり笑い、空を指さした。
「怖いよ? もちろん普通に考えれば怖い。でもね、怖がって泣いていても星のスピードは変わらない。だったら笑って感謝してみようよ。『すごいものを見せてくれてありがとう』って言った方が、心が軽くなるんだ」
人々はざわついた。誰もそんな発想をしたことがなかった。
一人さんはさらに続けた。
「人間ってね、“恐怖”を見れば地獄に落ちた気分になる。でも“感謝”を見れば、同じ光景が奇跡に変わるんだ。ほら、この星はただの“破滅の印”じゃない。“生きてる今を大事にしろよ”って教えてくれてる先生なんだよ」
群衆の中から、誰かが小さく笑った。
「たしかに…今まで何もかも当たり前に思ってたけど、今日生きてることだって奇跡なんだな」
別の人が涙を流しながら「ありがとう」とつぶやいた。
一人さんは大きな声で言った。
「そうそう! ほらみんな、声を合わせて言ってみようよ。『ありがとう!』って」
広場に集まった人々が、一斉に空に向かって叫んだ。
「ありがとう!」
その声が響いた瞬間、群衆の恐怖は少し和らぎ、空を覆う赤い惑星も、どこかただの自然現象のように見え始めた。
レミナは涙を流しながら、一人さんを見つめた。
「私…生きていていいんでしょうか。みんなが私を呪っても…」
一人さんは笑って答えた。
「もちろんだよ! 君がいるから、みんな自分の心と向き合えるんだ。だから君は“破滅を呼ぶ少女”じゃなく、“感謝を呼ぶ少女”なんだよ」
レミナの瞳に、初めて希望の光が宿った。
第二幕:惑星が星々を喰らう

赤い惑星レミナは、夜空でますます巨大になっていった。ある晩、人々が空を見上げると、遠くの星々がひとつ、またひとつと光を失っていくのが見えた。
「消えたぞ!」
「星が飲み込まれたんだ!」
空には巨大な影が広がり、赤黒い渦のような光景が世界を覆った。ニュースは連日「惑星レミナは恒星を食らう」と報じ、人々の恐怖は頂点に達した。
群衆が集まる広場の大画面モニターには、宇宙望遠鏡の映像が映し出されていた。無数の星々が次々とレミナに吸い込まれ、消滅していく様子が生々しく映し出されていた。
「宇宙が…崩壊していく!」
「次は地球だ!」
群衆の叫びと泣き声が広場にこだました。人々は絶望に打ちひしがれ、子どもたちまで泣き叫んでいた。
だがその時、またもや明るい声が響いた。
「いやぁ、すごいねぇ! まるで“宇宙の大食い選手権”だよ!」
人々が振り返ると、白い帽子をかぶった斉藤一人さんが、にこにことモニターを見上げていた。
「ラーメン何杯じゃなくて、星を何百個食べちゃうんだから、こりゃギネス世界記録だよ!」
群衆の中から思わず笑いがこぼれた。恐怖で張りつめていた空気に、少しずつユーモアが入り込んでいく。
一人さんはモニターの映像を指さして言った。
「でもね、よく考えてごらん。この惑星が星を食べるのを、僕らは“生で”見せてもらってるんだ。宇宙がどれだけ壮大かっていうショーを、特等席で見てるんだよ。これって、すごい贅沢だと思わない?」
群衆がざわついた。今まで恐怖でしかなかった光景が、一瞬「奇跡のショー」にも見え始めたのだ。
レミナは怯えた顔で一人さんを見た。
「でも…この星が私の名前を持っているせいで、みんな私を憎んでいるんです。私は存在するだけで呪いなんです…」
一人さんはにっこり笑い、首を横に振った。
「違うよ。君の名前がついてるのは偶然さ。君自身は呪いなんかじゃない。むしろ、この出来事を通じて人々が“生きてる今”をありがたく思えるようになるなら、君は“希望の象徴”なんだ」
群衆は耳を傾け始めた。
「宇宙が崩壊するかもしれない。でもね、僕らは今日も息をして、ご飯を食べて、笑えるんだよ。それってすごい奇跡だと思わないかい?」
小さな子どもが、母親に抱かれながら「ありがとう」と呟いた。
すると、次々に人々が声を上げた。
「ありがとう!」
「今日も生きてることにありがとう!」
絶望しかなかった広場に、感謝の声が満ちていった。
一人さんは大きな声で笑った。
「そうそう! 星が食べられたって大丈夫。感謝を食べられる宇宙なんてないんだから!」
群衆の中から笑いが起こり、恐怖の涙は次第に安堵の涙に変わっていった。
空には依然として赤い惑星がそびえていた。だが、その不気味な姿を見上げる人々の目には、もう昨日のような絶望ではなく、希望と感謝の光が宿っていた。
第三幕:群衆の怒りと少女レミナへの迫害

赤い惑星レミナは空でますます巨大になり、世界中の人々の恐怖は限界を超えていた。星々を食い尽くすその姿を見て、人々は理性を失い始めていた。
「この星は災いをもたらす!」
「レミナの名がついているから、すべて彼女のせいだ!」
広場に集まった群衆は、怯える少女レミナを取り囲み、怒りと恐怖をぶつけていた。誰もが「彼女を差し出せば惑星は退く」と信じたかったのだ。
「お前がこの星を呼んだんだろう!」
「お前を犠牲にすれば地球は助かる!」
松明や棒を手にした人々が、彼女にじり寄る。レミナは涙を流し、震えながら叫んだ。
「違う! 私は何もしていないの! 名前をつけられただけなの!」
しかし群衆の耳には届かなかった。恐怖が理性をねじ曲げ、怒りに変わっていた。
そのとき、白い帽子の男――斉藤一人さんが、にこにこと群衆の間に割って入った。
「おいおい! これはずいぶんおかしな芝居だねぇ! 主役の女の子ひとりに、こんなに大勢のエキストラを使うなんて、どんな大作映画だい?」
あまりに場違いな一言に、群衆の動きが止まった。怒りに燃える表情の中に、一瞬の困惑が走る。
一人さんは続けて言った。
「だいたいさ、星が空で食べ放題してるのに、どうして女の子ひとりを責めるんだい? もし本当に彼女のせいなら、“地球最大の大魔術師”だよ! そういう子に出会えたら、むしろ宝くじに当たったよりありがたい話じゃないか!」
群衆の中から、くすくすと笑いが漏れ始めた。
だがすぐに誰かが叫んだ。
「冗談を言うな! このままでは滅びるんだ!」
一人さんは真剣な顔になり、帽子のつばを軽く押さえて言った。
「みんな、よく考えてごらん。恐怖に駆られて誰かを悪者にするとき、人は必ず間違えるんだ。恐怖が強ければ強いほど、見えなくていい幻を作ってしまう。レミナちゃんは悪魔じゃない。君たちの恐怖がそう見せてるだけなんだよ」
人々の心にざわめきが走った。
一人さんはさらに声を張った。
「人は誰かを責めると安心した気になる。でもそれはただの“心の穴埋め”なんだ。埋めるべき穴は人を責めることでなく、『ありがとう』って言葉で満たすことなんだよ。感謝は恐怖を溶かす薬なんだから」
レミナは涙を流しながら一人さんを見つめた。
「私は…生きていていいんでしょうか?」
一人さんは大きな声で笑った。
「もちろんだよ! 君が生きているから、みんなは“恐怖に負けない心”を学べるんだ。君は呪いじゃない。“希望の先生”なんだよ」
群衆の中から誰かが「ありがとう」と小さくつぶやいた。その声は少しずつ広がり、やがて大勢の人々が口にし始めた。
「ありがとう!」
「生きてるだけでありがとう!」
群衆の怒りが和らぎ、涙と笑いが混じった声が夜空に響いた。赤い惑星は依然として空にあったが、人々の心には、恐怖ではなく「感謝」という光が灯り始めていた。
第四幕:惑星が空を覆い尽くす

赤い惑星レミナは、日に日に大きくなり、ついには空の大半を覆うほどにまで迫ってきた。星々はほとんど飲み込まれ、夜空にはもはや輝きはなく、ただ巨大な赤黒い球体が重々しく垂れ下がっていた。
「空が…もう全部覆われてる…!」
「まるで世界が呑み込まれるみたいだ!」
人々は震え上がり、町は絶望に包まれていた。広場に集まった群衆は空を見上げて泣き叫び、中にはその恐怖に耐えきれず気を失う者もいた。
その異様な光景の中で、ひとりだけ場違いなほどに明るい声が響いた。
「いやぁ、ここまで大きいとね、まるで“宇宙一のスクリーン”だね! しかも上映してるのは“惑星レミナ大接近スペシャル”。入場料はタダ! これ以上お得な映画館はないよ!」
群衆が驚いて振り返ると、白い帽子の斉藤一人さんが、にこにこと空を指差していた。
「ただね、この映画は上映時間がちょっと長すぎるのが難点かな! でも安心して。最後まで見た人には“感謝の大賞”がプレゼントされるんだから!」
人々の間に、くすくすと笑いが広がった。恐怖で凍りついていた空気に、小さな亀裂が入り、そこから温かさがにじみ出すようだった。
レミナは涙を浮かべながら問うた。
「でも…星が全部なくなって、空まで覆われたら…もう希望なんて残らないんじゃないですか?」
一人さんは帽子のつばを軽く下げ、にっこり笑った。
「違うよ。希望は空にあるんじゃない。君たちの心の中にあるんだ。空が真っ暗になっても、心に『ありがとう』が灯っていれば、どんな闇も怖くないんだよ」
人々はその言葉に耳を傾けた。
「見てごらん。確かに星は消えた。でも今ここに集まって、君たちは一緒に空を見上げている。生きている。呼吸している。それ自体が奇跡なんだよ。宇宙がどれだけ暴れても、今日という時間を生きられてる。それに感謝しようじゃないか」
群衆の中から「ありがとう」という声が聞こえた。
それはやがて波のように広がり、人々が一斉に声を合わせて叫び始めた。
「ありがとう!」
「生きていることにありがとう!」
「仲間といることにありがとう!」
その声が広場全体を包み込み、恐怖で凍りついていた空気が少しずつ溶けていった。
一人さんはさらに声を張り上げた。
「いいかい? 宇宙は星を飲み込めても、感謝の心は飲み込めないんだよ! 感謝は宇宙最強のエネルギーなんだから!」
群衆から大きな拍手と笑いが起こり、人々の目に涙があふれた。
レミナは胸に手を当て、小さく「ありがとう」とつぶやいた。彼女の顔に宿った光は、空を覆う赤黒い惑星の不気味さを、ほんの少し和らげるほどに強かった。
空は依然として恐ろしく重苦しかったが、その下に集まる人々の心は、かつてないほど明るく、力強く輝き始めていた。
第五幕:世界の終わりに響く笑いと感謝

赤い惑星レミナはついに地平線まで迫り、その巨大な影は空を完全に覆っていた。太陽は隠され、昼も夜も関係なく、世界は赤黒い薄明かりに包まれた。海は荒れ、地面は震え、誰もが「これで終わりだ」と思った。
人々は町の広場に集まり、絶望の声をあげていた。
「もう助からない!」
「地球は飲み込まれる!」
泣き叫ぶ子ども、祈る老人、怒り狂う男――町は混沌とし、人々は最後の瞬間に打ちひしがれていた。
その時、またもや明るい声が響いた。
「いやぁ~、ここまで来るとね、もう“宇宙最大の寄席”だよ! お客さんは地球全員、演目は『レミナ大接近』! これ、笑わなきゃ損だね!」
群衆が振り返ると、白い帽子の斉藤一人さんがにこにこと立っていた。恐怖で泣いていた人々も、思わず吹き出した。
一人さんは大きな声で続けた。
「みんな! 世界が終わるかもしれないときに、泣いて過ごすのと笑って過ごすの、どっちがいい? どうせなら“ありがとう”って笑って終わったほうが、宇宙にだっていい思い出を残せるだろう?」
その言葉に、人々は息をのんだ。
レミナは涙に濡れた顔で問いかけた。
「でも…私は“破滅を呼ぶ少女”と呼ばれてきました。みんな私を憎んで…」
一人さんはにっこり笑い、首を振った。
「違うよ。君は破滅を呼んだんじゃない。“感謝を呼んだ”んだよ。君のおかげで、みんな最後の瞬間に“ありがとう”を言えるんだ。これ以上素敵な役割があるかい?」
レミナの瞳に光が宿った。
一人さんは両手を広げ、叫んだ。
「さぁみんな、声を合わせよう! 最後の時こそ、最高の『ありがとう』を宇宙に響かせるんだ!」
人々は涙を流しながらも、一斉に叫んだ。
「ありがとう!」
「生きていてありがとう!」
「一緒にいられてありがとう!」
その声は地響きや海鳴りを突き抜け、赤黒い空にこだました。恐怖で凍りついていた人々の顔には笑顔が戻り、絶望の中に光が生まれていた。
一人さんはにっこり笑い、最後に言った。
「ほらね? どんな終わりも“ありがとう”で飾れば、それは終わりじゃなくて“最高の締めくくり”になるんだよ」
赤い惑星が地平線を覆い、世界は崩壊の時を迎えようとしていた。だがその瞬間、人々の心には恐怖ではなく――感謝と笑いが溢れていた。
世界の最後の夜は、涙と笑いと「ありがとう」の声で彩られたのだった。
むすびのことば

惑星レミナが空を覆っても、感謝の心は奪えません。
「ありがとう」という言葉で最後を飾れば、それは絶望ではなく“祝福の締めくくり”になるんです。
泣いて終わるより、笑って終わったほうがいい。
だから私はこう思います。
――もし世界が終わる日が来ても、人類みんなで「ありがとう!」と叫べば、最高の宴になるんだって。
Short Bios:
斉藤一人
迫り来る赤い惑星の恐怖を前に、「笑いと感謝で生き抜く」智慧を人々に伝える。物語全体で希望の象徴となる存在。
レミナ
科学者の娘。父が発見した惑星に自分の名前がつけられたため、世間から「破滅を呼ぶ少女」と迫害される。彼女自身は無垢な少女であり、希望を象徴する存在でもある。
群衆
惑星への恐怖から理性を失い、レミナを犠牲にすれば救われると信じて暴走する人々。人間の恐怖と暴力の象徴。
惑星レミナ
赤黒い巨大な惑星。恒星や地球を飲み込む存在。恐怖そのものの象徴として描かれる。
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