
はじめに
「ポジティブに考えよう」と言うのは簡単です。
“긍정적으로 생각하자”라고 말하는 것은 쉽습니다.
けれど、本当に苦しいとき、その言葉は届くのでしょうか。
하지만 정말 힘들 때, 그 말이 마음에 닿을 수 있을까요?
明日を迎えたくない高校生。
내일이 오지 않았으면 하는 고등학생.
誰かを傷つけたいほど怒っている青年。
누군가를 상처 입히고 싶을 만큼 분노한 청년.
今日食べるものさえない大学生。
오늘 먹을 음식조차 없는 대학생.
家族を支えるために「私は大丈夫」と言い続ける少女。
가족을 돌보기 위해 계속 “나는 괜찮아”라고 말하는 소녀.
そして、何不自由ないように見えるのに、生きる意味を感じられない若者。
겉으로는 부족한 것이 없어 보이지만 삶의 의미를 느끼지 못하는 청년.
この物語では、斎藤一人、春木開、武田双雲の3人が、そんな5人の若者を訪ねます。
이 이야기에서는 사이토 히토리, 하루키 카이, 다케다 소운 세 사람이 그런 다섯 청년을 찾아갑니다.
しかし、彼らは若者たちに「もっと頑張れ」とは言いません。
하지만 그들은 청년들에게 “더 열심히 해”라고 말하지 않습니다.
人生を一晩で変えようともしません。
인생을 하룻밤 사이에 바꾸려고 하지도 않습니다.
今日の結論を出さないこと。
오늘 인생의 결론을 내리지 않는 것.
怒りのまま行動しないこと。
분노한 상태에서 행동하지 않는 것.
温かいご飯を食べること。
따뜻한 밥을 먹는 것.
一人で抱えていた責任を分けること。
혼자 짊어졌던 책임을 나누는 것.
小さな喜びを一つ見つけること。
작은 기쁨 하나를 발견하는 것.
そんな一歩から始めます。
그런 한 걸음에서 시작합니다.
斎藤一人は、ものの見方と言葉を変えます。
사이토 히토리는 바라보는 방식과 말을 바꿉니다.
春木開は、今すぐできる小さな行動を探します。
하루키 카이는 지금 할 수 있는 작은 행동을 찾습니다.
武田双雲は、一文字にその人の心を映します。
다케다 소운은 한 글자에 그 사람의 마음을 담아냅니다.
「延」「選」「受」「分」「与」。
‘延’, ‘選’, ‘受’, ‘分’, ‘与’.
五つの文字は、五人の若者だけの答えではありません。
다섯 글자는 다섯 청년만을 위한 답이 아닙니다.
私たち自身が苦しい日に使える、小さな道しるべでもあります。
우리 자신이 힘든 날에 사용할 수 있는 작은 이정표이기도 합니다.
これは、いつも笑顔でいるための物語ではありません。
이것은 언제나 웃기 위한 이야기가 아닙니다.
「今日は無理でも、明日まで行ってみよう。」
“오늘은 힘들어도, 내일까지는 가보자.”
そう思える場所を、もう一度見つけるための物語です。
그렇게 생각할 수 있는 자리를 다시 찾아가는 이야기입니다.
(本稿に記されている対話はすべて仮想のものであり、実在の人物・発言とは関係ありません。)
第1話 消えたいと言えない夜

午後十時四十分。
東京郊外の駅前は、昼間とはまるで違う顔をしていた。
コンビニの白い光。
終電を気にしながら足早に歩く会社員。
イヤホンをした学生。
タクシー乗り場に並ぶ人たち。
その人の流れから少し離れたベンチに、一人の少年が座っていた。
高校二年生、17歳。
名前は悠斗。
制服の上に黒いパーカーを着て、スマートフォンを両手で握っている。
画面には何度も同じメッセージが表示されていた。
母親から。
「どこにいるの?」
「連絡してください」
「先生も心配しています」
悠斗は返事をしない。
今日、学校には行かなかった。
昨日も行かなかった。
先週も、ほとんど教室には入っていない。
成績が落ちた。
模試の順位も下がった。
仲の良かった友達とは、いつの間にか話さなくなった。
父親からは、
「ここで踏ん張らないと、将来困るぞ」
と言われた。
母親からは、
「あなたならできるから」
と言われ続けた。
どちらも悪気はなかった。
だから余計に苦しかった。
悠斗は、誰かを責めることもできなかった。
スマートフォンのメモには、一行だけ残っていた。
「もう疲れた。」
そのころ、駅の反対側では三人の男が歩いていた。
斎藤一人。
春木開。
武田双雲。
三人は、地域の若者支援団体から連絡を受けていた。
悠斗の担任が、ここ数日の様子を心配して相談したのが始まりだった。
母親とも連絡が取れている。
支援員も近くで待機している。
ただ、悠斗本人が誰にも会いたがらない。
そこで三人は、説得しに行くのではなく、
「少し話をする」
という形で会うことになった。
春木が駅の時計を見る。
「まだいますね。」
一人が言った。
「急がないほうがいいよ。」
「でも、こういうときは早く声をかけたほうがいいんじゃないですか?」
「早く助けるのと、早く答えを出すのは違うからね。」
双雲は何も言わず、悠斗のいるベンチを見ていた。
春木が小さく息を吐く。
「じゃあ、誰から行きます?」
一人が笑った。
「今日は競争しようか。」
春木が振り向く。
「競争?」
「誰が一番ポジティブなことを言えるか。」
春木は少し笑う。
「それ、負けませんよ。」
双雲も微笑んだ。
「では、ルールを決めましょう。」
「何ですか?」
「本人より先に、答えを言わない。」
三人はうなずいた。
最初に近づいたのは春木だった。
ベンチから少し離れた場所で立ち止まる。
「悠斗くん?」
少年は顔を上げない。
「先生じゃないです。」
反応はない。
「家に帰れとも言わないです。」
少しだけ、悠斗の指が止まった。
春木は続けた。
「ただ、ちょっと寒いから、向こうで温かいもの飲まない?」
悠斗が初めて顔を上げた。
「いらないです。」
「じゃあ、俺だけ飲む。」
春木は笑う。
「一人で飲むのもつまらないから、座ってていい?」
悠斗は答えなかった。
春木は少し離れた場所へ座った。
説教しない。
質問もしない。
数分後、斎藤一人も来た。
「こんばんは。」
悠斗は小さく頭を下げる。
一人はベンチの端に座る。
「今日は大変だった?」
悠斗はしばらく黙っていた。
「別に。」
「そっか。」
一人は、それ以上聞かなかった。
また沈黙。
駅前の音だけが流れる。
春木が自動販売機で温かいお茶を三本買って戻ってきた。
一本を悠斗の横へ置く。
「飲まなくてもいいから。」
悠斗は見ただけだった。
十分ほどたった。
双雲が少し離れたところで、小さなスケッチブックを開いた。
筆ペンで一文字書く。
「疲」
春木が覗き込む。
「いきなりネガティブですね。」
双雲は笑う。
「今日くらい、正直でいいでしょう。」
悠斗が少しだけその文字を見る。
双雲が聞いた。
「これ、今の感じに近い?」
悠斗は少し迷ってから答えた。
「……近いです。」
双雲はもう一枚めくる。
今度は、
「止」
と書いた。
「こっちは?」
悠斗はしばらくその文字を見ていた。
「……止まりたい。」
双雲はうなずいた。
「どこまで?」
悠斗の目が下を向く。
「全部。」
その言葉で、三人の表情が少し変わった。
誰も驚いた顔はしなかった。
一人が静かに言う。
「全部を止めたいくらい疲れたんだね。」
悠斗の唇が少し震える。
「もう、明日が来るのが嫌なんです。」
春木は、いつものようにすぐ「大丈夫」と言いそうになった。
でも止めた。
一人も励まさない。
双雲も新しい文字を書かない。
悠斗は続けた。
「学校に行ったら、また遅れてるって思われる。」
「家に帰ったら、親が心配する。」
「友達に会ったら、なんで来てないのって聞かれる。」
「どこに行っても、説明しないといけない。」
「もう説明するのも疲れました。」
一人が言った。
「じゃあ今夜は、説明しなくていい夜にしようか。」
悠斗が顔を上げる。
「どういう意味ですか?」
「将来の話もしない。」
「大学の話もしない。」
「学校へ戻る話もしない。」
「家族を安心させる話もしない。」
「今日は、明日の朝までどうするかだけ考える。」
悠斗は黙った。
春木が少し前へ身を乗り出した。
「俺、一つ提案していい?」
悠斗は小さくうなずく。
「今日を100点にしようとしなくていい。」
「10点でもいい。」
「じゃあ0点でも?」
「0点でもいい。」
春木は笑う。
「でも、マイナス100点まで自分を追い込む必要はない。」
「今日は何もしなくていいから、安全な場所へ移動する。」
「それだけ。」
悠斗は駅の方を見る。
「家には帰りたくないです。」
「帰らなくてもいい。」
春木は即答した。
悠斗が驚いて見る。
「今夜は別の場所でもいい。」
「支援の人も来てる。」
「お母さんにも、こっちから話す。」
「悠斗くんが全部説明しなくていい。」
その瞬間、悠斗の表情が少し崩れた。
「……本当に?」
「本当に。」
一人が笑った。
「春木くん、今のはかなりポジティブだね。」
春木が笑い返す。
「でしょ?」
「でも、まだ勝ってないよ。」
「じゃあ一人さんは?」
一人は悠斗を見る。
「俺はね、悠斗くんが今日ここまで来たことが、もう一つの良い知らせだと思ってる。」
悠斗が眉を寄せる。
「良い知らせ?」
「うん。」
「だって、本当に全部を終わらせたいだけなら、誰にも気づかれないようにする人もいる。」
「でも悠斗くんは、スマホを持ってる。」
「お母さんからの連絡も消してない。」
「ここで人がいる場所に座ってる。」
悠斗は何も言わない。
「たぶん心のどこかに、まだ誰かに見つけてほしい気持ちが残ってるんじゃないかな。」
悠斗の目に涙がたまった。
「……分からないです。」
「分からなくていい。」
「それなら、その分からない気持ちを今夜だけ預けよう。」
双雲が三枚目の紙を開いた。
今度は、
「延」
と書いた。
悠斗が見る。
「延ばす?」
「そう。」
双雲が言う。
「人生の答えを出す日を、明日に延ばす。」
「明日になっても苦しかったら?」
「また一日延ばす。」
「それでいいんですか?」
「いいと思います。」
双雲は少し笑う。
「大きな決断ほど、元気な日にしたほうがいいでしょう。」
春木が言う。
「それ、かなり強いですね。」
一人も笑う。
「双雲さん、今ので一歩リードだね。」
悠斗の口元が、ほんの少しだけ動いた。
三人はそれを見逃さなかった。
支援員の女性が少し離れた場所から近づいてきた。
悠斗には事前に説明する。
「今夜、安全に休める場所を用意できます。」
「無理に話さなくて大丈夫です。」
「明日のことは、明日考えましょう。」
悠斗はしばらく迷っていた。
「母には……?」
春木が答える。
「『安全にいる』ってことだけ伝える。」
「怒られませんか?」
一人が笑う。
「怒るかもしれないし、泣くかもしれない。」
「でも、それは明日の問題。」
「今夜は悠斗くんの問題だけでいい。」
悠斗はベンチの横に置かれた温かいお茶を見る。
まだ少し温かかった。
手に取る。
一口飲む。
「甘くないですね。」
春木が笑う。
「それ緑茶だから。」
悠斗が小さく笑った。
本当に小さな笑いだった。
でも三人にとって、その夜一番大きな出来事だった。
駅から離れる前、双雲が三枚の紙を悠斗へ渡した。
疲
止
延
悠斗は紙を見つめる。
「最後が『希望』とかじゃないんですね。」
双雲は笑った。
「希望って書くと、重い日もあります。」
「今日は『延』くらいがちょうどいい。」
斎藤一人が言う。
「希望を持てなくても、生きてていいんだよ。」
春木も続ける。
「元気になれなくてもいい。」
「明日まで行こう。」
悠斗はゆっくりうなずいた。
「……明日までなら。」
三人は顔を見合わせた。
春木が小声で言う。
「今日のポジティブ競争、誰が勝ちですか?」
一人が笑う。
「悠斗くんじゃない?」
「え?」
「だって、一番難しい選択をしたのは悠斗くんだから。」
双雲もうなずいた。
「明日まで生きる、と自分で決めましたから。」
悠斗は少し照れたように下を向いた。
翌朝。
空は薄い青色だった。
悠斗は支援員と一緒に朝食を食べていた。
スマートフォンには、母親から新しいメッセージが届いていた。
「今日は何も決めなくていいから。会えるときに会おう。」
悠斗は長い時間、その文章を見ていた。
そして初めて返事をした。
「今は大丈夫。」
たった六文字。
それだけだった。
けれど母親にとっては、何より大きな言葉だった。
少し離れた場所では、三人が朝食を食べている。
春木が言った。
「昨日、一人も『頑張れ』って言わなかったですね。」
一人が笑う。
「頑張りすぎてる人に、もっと頑張れって言ってもしょうがないからね。」
双雲は新しい紙に一文字書いた。
「朝」
春木が笑う。
「昨日の続きですね。」
「はい。」
双雲は窓の外を見る。
「来ましたから。」
昨日、来てほしくなかった朝が。
悠斗のところにも。
三人のところにも。
そして今日も、どこかで「明日が来てほしくない」と思っている誰かのところにも。
この三人の旅は、まだ始まったばかりだった。
第2話 誰かを傷つける前に

午前零時十五分。
大阪・梅田。
終電が近づき、駅前には急ぎ足の人が増えていた。
居酒屋から出てきた会社員。
スマートフォンを見ながら歩く若者。
タクシーを探す観光客。
その人の流れから少し離れたネットカフェの個室に、一人の青年が座っていた。
23歳。
名前は翔太。
机の上には、冷めたコーヒーとスマートフォン。
画面には、一人の男性のSNSが表示されていた。
翔太が以前働いていた会社の上司だった。
三か月前まで、翔太は小さな営業会社で働いていた。
朝早く出社し、夜遅く帰る。
成績が悪ければ皆の前で叱られた。
「お前、本当に使えないな」
「大学まで出て、その程度?」
「辞めてもどこにも行けないぞ」
冗談のように笑われる日もあった。
周りの社員も笑った。
最初は翔太も笑っていた。
けれど、そのうち笑えなくなった。
ある日、とうとう会社へ行けなくなった。
退職した。
それから三か月。
上司は何事もなかったように働き、SNSには楽しそうな写真を載せている。
旅行。
飲み会。
高級な食事。
「人生最高」
という投稿まであった。
翔太は、その言葉を見るたびに胸の奥が熱くなった。
自分だけが壊れた。
相手は何も失っていない。
そう感じていた。
スマートフォンのメモには、短い文章が残されていた。
「一回くらい、同じ気持ちを味わわせたい。」
同じころ。
ネットカフェの近くにある小さな喫茶店で、斎藤一人、春木開、武田双雲の三人が座っていた。
前回の悠斗の件から数日後だった。
今回、三人へ連絡したのは翔太の姉だった。
弟の様子がおかしい。
元上司のことばかり調べている。
「全部返してやりたい」
という言葉を何度も口にする。
姉は怖くなり、若者支援の相談窓口へ連絡した。
そこから三人へ話がつながった。
春木が言った。
「今回は前回と違いますね。」
一人がうなずく。
「そうだね。」
「今回は、自分を傷つける方向じゃなくて、誰かへ向いている。」
双雲が静かに聞いた。
「怒りを消しますか?」
春木は少し考える。
「消せるなら。」
一人が首を振った。
「消さないほうがいいと思う。」
「なぜですか?」
「怒って当然のことがあったなら、怒っていいんだよ。」
「でも、その怒りに次の人生を決めさせちゃいけない。」
春木が腕を組む。
「じゃあ今回のポジティブ競争は?」
一人が笑った。
「誰が一番早く、この怒りを別の方向へ動かせるか。」
双雲が言う。
「今回は難しそうですね。」
「だから面白い。」
春木の表情に、少しだけいつもの明るさが戻った。
三人はネットカフェへ向かった。
支援スタッフがすでに店内で待っていた。
翔太本人には、
「お姉さんが心配している。少しだけ話をする人が来ている」
と伝えてある。
翔太は最初、会いたくないと言った。
けれど、
「説教はしない」
という条件で、十分だけ話すことになった。
小さな共有スペース。
翔太はソファの端に座った。
三人が入ってくる。
翔太はすぐに言った。
「前向きな話なら、いらないです。」
春木が笑う。
「ちょうどいい。」
翔太が眉をひそめる。
「今日は前向きになってもらうために来てないです。」
「じゃあ何しに?」
「怒ってる理由を聞きに。」
翔太は黙る。
一人が座った。
「かなり腹が立ってる?」
「かなりじゃないです。」
「じゃあ?」
「殺したいくらいです。」
部屋が静かになる。
三人とも表情を変えなかった。
双雲が聞いた。
「ずっと?」
「毎日。」
「今も?」
翔太は答えない。
春木が少し体を前に出した。
「今からその人のところへ行く予定はある?」
翔太は一瞬、春木を見る。
「……考えてました。」
「今夜?」
また沈黙。
春木は声を落とす。
「じゃあ今日は、その人に会わない。」
翔太が少し笑った。
「それだけ?」
「それだけで十分大きい。」
「逃げろってこと?」
「違う。」
春木はまっすぐ翔太を見る。
「今日、その人に会わないことを、自分で決めるってこと。」
翔太は急に声を強くした。
「なんで俺ばっかり我慢しなきゃいけないんですか。」
「ずっと我慢した。」
「会社でも我慢した。」
「辞めてからも我慢した。」
「向こうは普通に生きてる。」
「俺だけ眠れない。」
「俺だけ仕事もない。」
「俺だけ家族に心配される。」
「なんで、また俺が我慢するんですか。」
春木は何も言わなかった。
斎藤一人が静かに聞いた。
「一番許せないのは何?」
「全部です。」
「全部の中で、一個だけ選ぶなら?」
翔太はしばらく黙った。
「……俺が壊れたことを、あの人が知らないこと。」
一人はうなずいた。
「なるほど。」
「謝ってほしい?」
「謝っても意味ない。」
「じゃあ、分からせたい?」
翔太の目が少し変わる。
「そうです。」
「俺がどれだけ苦しかったか。」
「同じくらい苦しんでほしい。」
一人が言った。
「翔太くんが欲しいのは、相手の痛みじゃなくて、自分の痛みを認めてもらうことかもしれないね。」
翔太はすぐに否定した。
「違います。」
「そっか。」
一人はあっさり引いた。
「じゃあ今は違うでいい。」
翔太が少し戸惑う。
「決めつけないんですか?」
「人の気持ちは、その人しか分からないからね。」
武田双雲がノートを開いた。
一文字書いた。
「怒」
翔太が見る。
双雲は言う。
「怒りって、悪いものだと思いますか?」
「普通は。」
「私は、違うと思っています。」
「何がですか?」
「怒りって、何かを大事にしていた証拠でもある。」
翔太は黙る。
「尊重されたかった。」
「ちゃんと働きたかった。」
「人として扱ってほしかった。」
「それを踏まれたから、怒っているのかもしれない。」
翔太は初めて、双雲の顔をまっすぐ見た。
「じゃあ、この怒りは正しいんですか?」
「怒りそのものは、あっていい。」
双雲は次の紙を開く。
「選」
「でも、その怒りを何に使うかは選べる。」
春木が立ち上がった。
「よし。」
翔太が見る。
「何ですか。」
「ここから俺の番。」
春木はスマートフォンを机に置いた。
「今、この怒りを三つに分けよう。」
「三つ?」
「一つ目。今夜やったら明日後悔すること。」
「二つ目。今週やっていいこと。」
「三つ目。半年後の翔太くんを強くすること。」
翔太は少し鼻で笑った。
「そんな簡単に分けられない。」
「簡単じゃなくていい。」
春木は紙を三枚並べる。
「でも、頭の中に全部置いてると、全部同じくらい大きく見える。」
「外に出そう。」
翔太は黙ったままだった。
春木が最初の紙に書く。
「今夜、元上司のところへ行く。」
翔太の表情が固まる。
「これは?」
「明日後悔する可能性が高い。」
翔太はしばらく見てから、小さくうなずいた。
二枚目。
「会社で何があったか、記録する。」
翔太が顔を上げる。
「記録?」
「メール、メッセージ、勤務時間、覚えている言葉。」
「相談できる場所へ持っていく。」
「これは?」
翔太が答える。
「……今週やっていい。」
三枚目。
「次の仕事を見つける。」
翔太はすぐに言った。
「無理です。」
春木が答える。
「今すぐじゃない。」
「半年後でもいい。」
「元上司より幸せになる。」
翔太は少し笑った。
「それが復讐ですか?」
春木も笑う。
「俺なら、それを選ぶ。」
一人が口を挟む。
「でも春木くん、それも相手中心になってるよ。」
「どういうことですか?」
「『元上司より幸せになる』だと、まだ人生の基準が元上司なんだよ。」
翔太が一人を見る。
一人は言った。
「本当に自由になるなら、あの人が幸せでも不幸でも関係なくなるところまで行きたいね。」
翔太が苦笑する。
「そんなの無理です。」
「今はね。」
「今は無理でいい。」
「三か月後も無理かもしれない。」
「一年後なら?」
翔太は答えない。
「分からない。」
一人が笑う。
「それでいいよ。」
しばらくして、翔太がぽつりと言った。
「俺、本当は怖いんです。」
三人とも黙って聞く。
「また働いたら、同じことになる気がする。」
「上司が違っても。」
「会社が違っても。」
「また使えないって言われるんじゃないかって。」
春木が椅子へ座り直す。
一人が聞いた。
「怒りの下に、怖さもあったんだね。」
翔太は目を伏せる。
「たぶん。」
双雲が新しい紙へ書く。
「守」
「怒りが、翔太くんを守っていたのかもしれませんね。」
「守る?」
「怖いと思うより、怒っていたほうが強く感じられる。」
翔太は長い時間、その文字を見ていた。
「……それはあるかもしれない。」
ここで春木が急に笑った。
「じゃあ、今日のポジティブ競争、ちょっとルール変えましょう。」
翔太が眉をひそめる。
「まだ競争してるんですか?」
「してます。」
「何を競ってるんですか?」
「誰が一番、この怒りから得できる未来を作れるか。」
翔太が初めて少し笑った。
「変な競争ですね。」
一人が言う。
「俺はもう案があるよ。」
「何ですか?」
「この経験を、次の職場選びの基準にする。」
「何が嫌だったかを全部書けば、逆に何を大事にしたいか分かる。」
双雲が続ける。
「私は、翔太くんが同じ経験をした人の話を聞ける人になる可能性があると思う。」
春木も負けない。
「俺はもっと現実的にいく。」
「明日、相談窓口へ行く。」
「証拠を整理する。」
「生活リズムを戻す。」
「一週間後に、新しい仕事を探すかどうか考える。」
一人が笑う。
「春木くん、それ四つあるじゃない。」
「ポジティブは量も大事です。」
翔太が、小さく声を出して笑った。
その夜初めての笑いだった。
午前一時を過ぎた。
支援スタッフが、翔太に確認した。
「今夜、元上司へ会いに行かないと約束できますか?」
翔太はすぐには答えなかった。
三人も急かさない。
一分ほどたった。
翔太が言った。
「……今日は行きません。」
「連絡もしない?」
「しません。」
「一人で過ごしますか?」
翔太は少し考える。
「姉のところへ行きます。」
春木が笑った。
「それ、かなりポジティブですよ。」
翔太が苦笑する。
「何でもポジティブにしますね。」
「仕事なんで。」
一人が笑う。
「仕事だったの?」
「今決めました。」
また小さな笑いが起きた。
ネットカフェを出ると、街は少し静かになっていた。
翔太の姉が車で迎えに来ていた。
翔太は乗る前に三人へ振り返る。
「一個聞いていいですか?」
「もちろん。」
「もし、あの人が一生謝らなかったら?」
一人が答えた。
「翔太くんの人生を、その人の謝罪待ちにしなくていい。」
双雲が言う。
「許さなくても、前へ進めます。」
春木が最後に続ける。
「そして、いつかどうでもよくなったら、その日が一番の勝ちです。」
翔太は少し考えてからうなずいた。
「……それは、ちょっと分かるかもしれない。」
車のドアを開ける。
そのとき双雲が、一枚の紙を渡した。
「選」
翔太は見る。
「これ、持って帰っていいですか?」
「もちろん。」
「怒ることをやめるためじゃありません。」
「怒ったあとに、自分で選べることを忘れないためです。」
翔太は紙を丁寧に折り、ポケットへ入れた。
翌日の午後。
春木のスマートフォンに短いメッセージが届いた。
翔太からだった。
「姉と一緒に相談窓口へ行きました。」
その下にもう一行。
「昨日、行かなくてよかったです。」
春木はその画面を二人へ見せる。
「さて。」
「昨日の勝者は誰ですか?」
一人が笑う。
「今回も本人じゃない?」
春木が頭を抱える。
「俺たち、一回も勝てないですね。」
双雲は新しい紙を出した。
そこに一文字書く。
「勝」
春木が見る。
「やっと勝ちですか?」
双雲は笑った。
「誰かを負かさなかった日の勝ちです。」
一人も笑う。
「それは、いいね。」
三人は歩き始めた。
人を傷つけたいほどの怒りが、一晩で消えたわけではない。
翔太がすべてを許したわけでもない。
傷も残っている。
怖さも残っている。
けれど昨日まで、
「相手をどうするか」
だけを考えていた青年が、
今日は初めて、
「自分をどうするか」
を考え始めていた。
三人にとって、それで十分だった。
次に向かう先では、怒りでも絶望でもない、もっと静かな危機が待っていた。
今日の食事さえ買えない一人の大学生。
希望を話す前に、まず必要なものがある。
三人は、そのことを知ることになる。
第3話 今日のご飯がない

午後六時二十分。
福岡市内の大学近く。
授業を終えた学生たちが、友人と話しながら駅へ向かっていた。
コンビニには新しい弁当が並び、飲食店からは湯気と匂いが流れてくる。
その中を、一人の大学生がゆっくり歩いていた。
名前は健太。
20歳。
大学二年生。
ポケットの中には、硬貨が少しだけ入っていた。
財布を開く。
132円。
銀行口座には、ほとんど残っていない。
給料日は五日後。
冷蔵庫には、調味料と水しかなかった。
健太はコンビニの前で一度立ち止まった。
おにぎり。
パン。
カップ麺。
どれも買えないわけではない。
でも今日使えば、明日がなくなる。
スマートフォンには、友人からメッセージが届いていた。
「今日、一緒にラーメン行かない?」
健太は少し考えてから返した。
「今日はバイトある」
本当は、バイトはなかった。
最近、この嘘が増えていた。
「予定ある」
「先に帰る」
「ちょっと体調悪い」
全部、食事に誘われないためだった。
健太は大学へ入ってから、一人暮らしを始めた。
実家は遠く、家計にも余裕がない。
奨学金。
家賃。
光熱費。
携帯代。
教科書。
交通費。
アルバイト代だけでは、少しずつ足りなくなっていた。
先月、体調を崩して何日かバイトを休んだ。
その数日分の収入が消えただけで、生活のバランスが崩れた。
健太は誰にも言えなかった。
親に心配をかけたくない。
友達にお金がないと思われたくない。
大学にも相談したくない。
「これくらい自分で何とかしないと」
そう考えていた。
その日の夕食は、水でいいと思っていた。
午後七時。
斎藤一人、春木開、武田双雲の三人は、大学近くの小さな地域食堂にいた。
今回、三人へ連絡したのは大学の職員だった。
健太が授業中に何度かふらつき、昼休みに何も食べていないことに気づいた。
本人は、
「朝食を食べすぎただけです」
と笑っていた。
けれど職員は心配になった。
春木が聞く。
「今日は何を話せばいいんですか?」
一人が答える。
「今日は話す前に、食べるんじゃない?」
双雲もうなずく。
「空腹の人に人生論を話しても、頭に入らないでしょうね。」
春木が笑った。
「じゃあ今日のポジティブ競争は簡単ですね。」
「誰が一番いい言葉を言うかじゃなくて?」
「誰が一番、健太くんの生活を楽にできるか。」
一人が笑う。
「それは春木くんが強そうだね。」
「今日は勝ちますよ。」
双雲が言う。
「私は別の勝負にします。」
「何ですか?」
「誰が一番、本人の恥ずかしさを減らせるか。」
一人がうなずく。
「それ、大事だね。」
健太が来たのは七時半だった。
大学職員から、
「少し話を聞いてくれる人がいる」
と言われ、渋々来た。
店に入ると、三人が待っていた。
健太は少し警戒した顔をした。
「僕、そんなに困ってないです。」
春木がすぐ答える。
「よかった。」
健太が驚く。
「え?」
「じゃあ今日は普通にご飯食べましょう。」
テーブルには、温かい定食が並んでいた。
ご飯。
味噌汁。
焼き魚。
野菜の煮物。
健太は見た瞬間、目をそらした。
「僕、お金持ってないです。」
一人が言う。
「今日はこっちが誘ったから。」
「でも。」
「ご飯くらい食べようよ。」
健太はまだ座らない。
双雲が言った。
「もし逆だったらどうします?」
「何がですか?」
「友達が食べられない日があったら、健太くんはご飯を出しますか?」
「出します。」
「では今日は順番が逆なだけです。」
健太はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくり座った。
最初の数分、健太はほとんど話さなかった。
ただ食べた。
一口。
また一口。
味噌汁を飲む。
箸の動きが少しずつ速くなる。
春木は何も聞かなかった。
一人も話さない。
双雲も静かに食べていた。
半分ほど食べたところで、健太が言った。
「……久しぶりです。」
「何が?」
一人が聞く。
「こういうご飯。」
「普段は?」
「パンとか。」
「今日は何食べた?」
健太は答えなかった。
春木が顔を見る。
「何も食べてない?」
健太は小さくうなずいた。
「昨日は?」
「昼にパン。」
「夜は?」
「水。」
三人の表情が変わった。
けれど、誰も大げさな反応をしなかった。
一人が静かに言った。
「それは大変だったね。」
健太は急に笑った。
「でも、五日後に給料入るんで。」
春木が言う。
「五日間、水でいく予定だったの?」
健太は黙った。
食事が終わるころ、春木がノートを出した。
「よし。」
健太が見る。
「何ですか?」
「五日間をどうするか考える。」
「大丈夫です。」
「大丈夫なら、今ここに来てない。」
健太は苦笑した。
春木は続ける。
「今日だけ何とかするのは簡単。」
「でも、来月また同じことが起きたら意味がない。」
紙に三つ書く。
今日
今月
来月
「まず今日。」
「食事は?」
健太が答える。
「食べました。」
「明日の朝は?」
「何もないです。」
春木はすぐ地域食堂のスタッフへ確認する。
「明日の朝に持って帰れるものってありますか?」
スタッフは、保存できる食品や支援用の食料を用意できると答えた。
春木が言う。
「一個解決。」
健太が少し困った顔をする。
「そこまでしてもらわなくても。」
「じゃあ勝負しよう。」
「何の?」
「どれだけ少ない助けで、生活を立て直せるか。」
健太が少し笑う。
次は「今月」。
大学には、緊急支援制度があった。
食料支援。
学生相談。
授業料の相談。
一時的な生活支援。
健太は何も知らなかった。
「そんなの使ったら、困ってるって思われますよね。」
双雲がノートを開く。
一文字書く。
「借」
健太が見る。
「借りる?」
「助けを借りる。」
双雲は続ける。
「椅子も、図書館の本も、奨学金も、誰かが作った仕組みを借りています。」
「人は最初から全部自分で持っているわけではない。」
「食べ物や助けだけ借りたら、なぜ急に恥ずかしくなるのでしょう。」
健太は黙る。
双雲はもう一枚めくる。
「返」
「いつか別の形で返せばいい。」
「誰に?」
「同じ人でなくていい。」
「健太くんが余裕を持てる日が来たら、そのとき困っている誰かへ返せばいい。」
健太はその文字を長く見ていた。
斎藤一人が聞いた。
「健太くん、お父さんとお母さんには言ってないんだよね?」
「はい。」
「なぜ?」
「心配させたくないから。」
「友達にも?」
「言えないです。」
「なぜ?」
「かわいそうって思われるのが嫌です。」
一人はうなずいた。
「健太くんは、困っていることより、困っている自分を見られることのほうが怖いんだね。」
健太は顔を伏せた。
「……たぶん。」
一人は少し笑う。
「でもね。」
「お金がない日があることと、価値がないことは全然違う。」
健太は黙って聞く。
「生活が苦しいと、自分まで小さくなったような気がするんだよ。」
「でも、口座の数字と人間の値段は別物だから。」
健太の目が少し赤くなった。
「親に迷惑かけたくないです。」
「その気持ちは立派だね。」
「でも、自分を倒してまで心配をかけないようにしたら、もっと心配かけることになる。」
「……そうですね。」
「今度から、限界になる前に一人だけ決めておこう。」
「何を?」
「『お金がない』って言える人。」
春木がすぐに乗ってくる。
「いいですね。」
「じゃあ今日決めよう。」
「誰?」
健太は考える。
「大学の友達一人なら。」
「名前は言わなくていい。」
「その人に、次に同じことが起きたら言える?」
「たぶん。」
「たぶんは禁止。」
健太が笑う。
「厳しいですね。」
「今日だけは。」
「……言います。」
春木が笑う。
「よし、一個増えた。」
次に三人は、健太の一か月の支出を一緒に見た。
家賃。
携帯代。
交通費。
食費。
教科書。
アルバイト収入。
健太は、自分が思っていたより無駄遣いをしていなかった。
問題は、収入が少し減るだけで赤字になることだった。
春木が言う。
「節約の問題じゃないですね。」
「もっと削れって話にしなくてよかった。」
健太が言う。
「僕、自分がだらしないと思ってました。」
一人が笑う。
「だらしなくないよ。」
「単純に余裕がなかっただけ。」
双雲が言う。
「自分を責める前に、数字を見ると分かることがありますね。」
健太は少し安心した顔になる。
春木が今度はアルバイトの話を聞いた。
「今の仕事、増やせる?」
「授業と重なります。」
「じゃあ増やさない。」
健太が驚く。
「もっと働けって言われると思いました。」
「大学へ行くために大学生活壊したら意味ないでしょ。」
「別のバイトは?」
「探したいです。」
「じゃあ、今月は生活を守る。」
「来月から少し条件のいい仕事を探す。」
「一気に変えない。」
一人が笑う。
「春木くん、今日はずいぶん慎重だね。」
「前回までで学んだんです。」
双雲が聞く。
「何を?」
「ポジティブって、急がせることじゃないって。」
三人が少し笑った。
そのとき、地域食堂のスタッフが小さな袋を持ってきた。
米。
レトルト食品。
缶詰。
簡単な朝食。
健太は袋を見る。
「これ、本当に持って帰っていいんですか?」
スタッフが答える。
「そのためにあります。」
健太はすぐ手を出さなかった。
一人が言う。
「健太くん。」
「はい。」
「今日のポジティブ競争、最後の問題。」
「また競争ですか?」
「そう。」
「この袋を受け取ることを、どう考えたら一番前向き?」
健太は困ったように笑う。
春木が先に答える。
「明日の体力への投資。」
双雲が言う。
「未来から一時的に借りる。」
一人が言う。
「誰かの親切を受け取る練習。」
三人が健太を見る。
「どれ?」
健太は少し考えた。
「全部、ちょっと恥ずかしいです。」
三人が笑う。
「正直だね。」
健太も笑った。
しばらくして、袋を手に取った。
「でも。」
「今日は受け取ります。」
「それでいい。」
店を出るころには、午後十時を過ぎていた。
健太は食料の袋を持っている。
春木が聞く。
「明日の朝、何食べる?」
「ご飯。」
「味噌汁は?」
「あります。」
「昼は?」
「大学の支援で相談してみます。」
「来月は?」
「バイト探します。」
一人が聞く。
「困ったら?」
健太は少し恥ずかしそうに答えた。
「言います。」
「誰に?」
「友達か大学の人に。」
双雲がノートを開く。
今日最後の一文字を書いた。
「受」
健太が見る。
「受け取る?」
「はい。」
「今日は、何かを頑張って与える日ではなかったですね。」
「受け取る日でした。」
健太は紙を見る。
「受け取るのもポジティブなんですか?」
一人が答える。
「かなりポジティブだと思うよ。」
「自分には明日があると思わないと、受け取らないから。」
健太は少し驚いた顔をした。
そして、ゆっくりうなずいた。
一週間後。
健太から短いメッセージが届いた。
「大学の相談窓口に行きました。」
「友達にも話しました。」
「昨日、その友達とラーメン食べました。」
その下に、
「今回はおごってもらいました。次は自分が出します。」
と書いてあった。
春木が画面を見せる。
「今回、俺けっこう活躍しましたよね。」
一人が笑う。
「そうだね。」
「じゃあ勝ち?」
双雲が言う。
「今回も健太くんでしょう。」
春木が笑う。
「またですか。」
一人が言う。
「お腹が空いてるって言うより、助けてって言うほうが難しい人もいるからね。」
双雲は新しい紙に一文字書いた。
「満」
春木が見る。
「満腹?」
双雲は笑う。
「それもあります。」
三人も笑った。
食事だけで人生が変わるわけではない。
お金の問題も、奨学金も、仕事も残っている。
けれど健太はもう、
「一人で何とかしなければならない」
とは考えていなかった。
今日食べるものがない。
そんな小さく見える問題が、人を深く孤独にすることがある。
そして時には、
夢を語ることより、
励ますことより、
温かいご飯を一緒に食べることから、
希望は始まる。
三人の次の目的地では、これまでとは違う種類の若者が待っていた。
自分の時間をほとんど持たず、家族を支え続ける16歳の少女。
誰よりもしっかりしているように見えるその少女は、
「私は大丈夫です」
という言葉を、何度も繰り返していた。
第4話 私は大丈夫です

午後四時十五分。
宮城県仙台市。
住宅街の細い道を、一人の女子高校生が自転車で走っていた。
高校一年生。
16歳。
名前は美咲。
制服姿のままスーパーへ寄り、特売の野菜を買う。
牛乳。
卵。
豆腐。
もやし。
スマートフォンを見る。
母からメッセージが届いていた。
「今日は体調が悪いから、ご飯お願い。」
美咲はすぐ返事をする。
「分かった。」
弟からも届く。
「お腹すいた。」
「もう帰るね。」
短く返した。
午後五時。
家へ着く。
制服を着替える前に夕食を作る。
洗濯機を回す。
母へ薬を持っていく。
弟の宿題を見る。
風呂を洗う。
ゴミをまとめる。
食器を片づける。
夜九時。
ようやく机へ座る。
教科書を開く。
その瞬間、眠ってしまった。
翌朝。
学校。
担任教師は美咲を見て気づいた。
授業中、何度も眠そうにしている。
昼休みも保健室へ行き、机へ突っ伏していた。
友達が聞く。
「大丈夫?」
美咲は笑う。
「うん、大丈夫。」
またその言葉だった。
誰に聞かれても、
「大丈夫。」
家でも。
学校でも。
近所でも。
それが美咲の口ぐせだった。
数日後。
地域の福祉担当者から相談を受け、斎藤一人、春木開、武田双雲の三人が仙台へ向かった。
母親は病気で長期間働けない。
父親はいない。
弟は小学四年生。
美咲が家のほとんどを支えていた。
春木は資料を見ながら言う。
「本当にすごい子ですね。」
一人は静かに答えた。
「そうだね。」
「でも今回は、その『すごい』が危ない。」
春木が顔を上げる。
「どういうことですか?」
「周りが安心しちゃうんだよ。」
「この子ならできるって。」
双雲が小さく言った。
「頑張れる子ほど、助けを頼まれ続けますね。」
三人は夕方、美咲の家を訪ねた。
玄関を開けた美咲は少し驚く。
「こんにちは。」
春木が笑顔で頭を下げる。
「今日はちょっと遊びに来ました。」
「遊び?」
「そう。」
「ご飯も一緒に食べたい。」
美咲は困ったように笑った。
「たいした物ありませんよ。」
一人が笑う。
「十分だよ。」
台所では、美咲が手際よく料理を作っていた。
味噌汁。
肉じゃが。
ほうれん草のおひたし。
弟はテレビを見ている。
母親は横になっていた。
春木は感心して言う。
「料理、うまいですね。」
「毎日なので。」
「いつから?」
「中学生くらいです。」
「毎日?」
「はい。」
「掃除も?」
「はい。」
「洗濯も?」
「はい。」
「弟の勉強も?」
「はい。」
「学校は?」
「普通です。」
「眠くない?」
「大丈夫です。」
春木はそれ以上聞かなかった。
夕食が終わったあと。
母親が部屋で休んでいる間に、美咲と三人は縁側へ座った。
夏の終わりの風が少し涼しい。
一人が聞く。
「美咲ちゃん。」
「はい。」
「最近、一番笑ったのいつ?」
美咲は少し考えた。
「覚えてません。」
「じゃあ、一番ゆっくりした日は?」
また考える。
「去年かな。」
春木が思わず笑う。
「去年?」
美咲も笑った。
「そうかもしれません。」
「今年は?」
「ないです。」
それでも美咲は笑っていた。
春木が急に立ち上がる。
「よし!」
美咲が驚く。
「何ですか?」
「今日のポジティブ競争!」
一人が笑う。
「始まったね。」
「今回は誰が一番、美咲ちゃんを休ませられるか。」
双雲もうなずく。
「いい競争です。」
美咲は少し吹き出した。
「変な競争ですね。」
「負けませんよ。」
春木は本気だった。
最初に動いたのは春木だった。
「美咲ちゃん。」
「はい。」
「今日は食器洗わなくていい。」
「え?」
「俺やる。」
「そんな。」
「今日だけ交代。」
弟が言った。
「僕もやる。」
春木は笑う。
「よし、チーム結成。」
弟は楽しそうに立ち上がった。
美咲は戸惑っている。
「でも。」
「今日は座ってて。」
「落ち着かないです。」
「その落ち着かなさも体験しよう。」
美咲は苦笑した。
一人は庭へ出た。
弟もついてくる。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「お姉ちゃん、すごいでしょ。」
「すごいね。」
「僕、早く大人になって助けたい。」
一人は弟の肩へ手を置く。
「今でも助けられるよ。」
「え?」
「ありがとうって言える。」
「手伝える。」
「笑わせられる。」
「全部助けなんだ。」
弟は真剣に聞いていた。
そのころ。
双雲は縁側で美咲と二人きりになっていた。
ノートを開く。
一文字書く。
「休」
美咲が笑う。
「今の私ですね。」
「そう思いますか?」
「休めない人です。」
双雲はもう一枚めくる。
今度は、
「信」
「誰を信じる字だと思います?」
美咲は少し考えた。
「家族?」
双雲は首を横へ振る。
「違います。」
「じゃあ。」
「人に任せても大丈夫だと信じる字です。」
美咲は静かになった。
「私。」
「人に頼るの苦手です。」
「知っています。」
「頼ったら迷惑になる気がして。」
双雲は微笑む。
「その言葉、今日何回目ですか。」
美咲は少し考えた。
「……分かりません。」
「私は数えていました。」
「何回ですか?」
「十一回。」
美咲は驚いて笑った。
「そんなに?」
「全部、『私がやります』でした。」
そのころ台所では。
春木と弟が食器を洗っていた。
弟が突然聞く。
「お姉ちゃんって、疲れてるのかな。」
春木は手を止める。
「どう思う?」
「夜、よく寝てる。」
「眠ってるんじゃなくて、気を失うみたい。」
春木の手が止まった。
「学校でも寝ちゃう。」
「でも、お姉ちゃん、『大丈夫』って言う。」
春木は小さく息を吐いた。
「弟くん。」
「うん。」
「今日から、一日一回だけ言ってほしいことがある。」
「何?」
「『お姉ちゃん、ありがとう』。」
弟は笑う。
「毎日?」
「毎日。」
「分かった。」
夜になった。
三人は帰る時間になった。
玄関で美咲が頭を下げる。
「今日はありがとうございました。」
春木が言う。
「お願いがある。」
「何ですか?」
「来週まで宿題。」
「宿題?」
「一日十五分、何もしない時間を作る。」
美咲は笑う。
「無理です。」
「じゃあ十分。」
「難しいです。」
「五分。」
「……。」
春木は笑った。
「一分。」
美咲も笑った。
「それなら。」
「約束。」
「約束します。」
一人が最後に言う。
「美咲ちゃん。」
「はい。」
「頑張る人には二種類いる。」
「二種類?」
「自分を幸せにするために頑張る人。」
「みんなを幸せにするために頑張る人。」
「美咲ちゃんは後者。」
美咲は静かに聞いていた。
「でもね。」
「はい。」
「自分が倒れたら、みんなも困る。」
「だから休むのは、わがままじゃない。」
「仕事なんだよ。」
美咲の目が少し潤んだ。
「初めて言われました。」
双雲は最後の一枚を書く。
「分」
美咲が見る。
「分ける?」
「はい。」
「仕事を分ける。」
「責任を分ける。」
「時間を分ける。」
「悲しみも分ける。」
「全部、一人で持たなくていい。」
美咲はその紙を胸に抱えた。
「ありがとうございます。」
一週間後。
春木のところへ一枚の写真が届いた。
縁側。
美咲が本を読んでいる。
隣では弟が洗濯物をたたんでいた。
メッセージが添えられている。
「今日は十五分休めました。」
春木が笑う。
「十五分になってる。」
一人も笑う。
「一分から成長したね。」
双雲は新しい紙へ一文字書いた。
「和」
春木が見る。
「今日は和ですか。」
双雲はうなずいた。
「家族が一人で支える形から、みんなで支える形になりました。」
一人が静かに言った。
「今回の勝者も、美咲ちゃんだね。」
春木は笑う。
「もう分かってました。」
三人も笑った。
誰かを支えることは美しい。
でも、本当に美しいのは、
支えられる勇気を持つこと。
三人はまた次の町へ向かった。
そこには、一見何も問題がないように見えながら、
「生きる理由が分からない」
と静かにつぶやく大学生が待っていた。
その悩みは、これまでとは違い、
誰の目にも見えない苦しみだった。
第5話 幸せなのに、空っぽです

午後三時四十分。
京都。
鴨川の川沿いでは、大学生たちが芝生に座り、笑いながら話していた。
ギターを弾く青年。
レポートを書く学生。
観光客。
犬の散歩をする夫婦。
穏やかな午後だった。
その少し離れた場所。
一人の青年がベンチに座っていた。
大学三年生。
21歳。
名前は蓮。
ノートパソコンを開いている。
成績は優秀。
奨学金もない。
アルバイトもしている。
家族仲も悪くない。
友達もいる。
健康診断でも異常はない。
周りから見れば、
「順調な大学生」
だった。
それでも蓮は、毎日同じことを考えていた。
「何のために生きているんだろう。」
苦しくて眠れないわけではない。
泣くわけでもない。
ただ、
何をしても心が動かなかった。
映画を見ても。
旅行へ行っても。
恋人と会っても。
「楽しい。」
そう思う前に、
「これが終わったら、また同じ毎日だ。」
と考えてしまう。
誰にも相談できなかった。
「恵まれている人間が、こんなことを言ったら怒られる。」
そう思っていた。
数日前。
大学のカウンセラーから一本の相談が入った。
「困っているようには見えません。」
「でも、生きる意味が分からないと言っています。」
「本人も、自分は相談する資格がないと言っています。」
その話を聞き、斎藤一人、春木開、武田双雲の三人は京都へ向かった。
春木は歩きながら言う。
「今回は難しいですね。」
「生活も困ってない。」
「家族もいる。」
「仕事もある。」
「何を助ければいいんでしょう。」
一人は笑う。
「何も助けないかもしれないね。」
春木が驚く。
「え?」
「今回は、答えを探しに行くんじゃない。」
「一緒に歩きに行く。」
双雲が静かに言った。
「今日のポジティブ競争は変わりそうですね。」
春木が笑う。
「今回は何を競います?」
一人は空を見上げた。
「誰が一番、焦らないでいられるか。」
三人は鴨川で蓮と会った。
蓮は少し照れくさそうに頭を下げた。
「わざわざ来てもらって、すみません。」
春木が笑う。
「謝るところから始めなくていいよ。」
「でも。」
「今日は散歩しよう。」
「話さなくてもいい。」
蓮は少し安心したようだった。
四人は川沿いを歩き始めた。
十分ほど、誰も何も話さなかった。
風だけが吹いている。
やがて蓮が口を開いた。
「僕。」
「幸せなんです。」
三人は黙って聞く。
「だから困るんです。」
「困る?」
一人が聞いた。
「はい。」
「親にも感謝してます。」
「友達もいます。」
「将来も多分大丈夫です。」
「なのに。」
蓮は川を見る。
「朝起きても、別に今日じゃなくてもいい気がする。」
「何をしても。」
「何かが足りない。」
「でも何が足りないか分からない。」
春木は少し考えて言った。
「じゃあ新しいことを始めよう!」
蓮は苦笑した。
「それ、もうやりました。」
「旅行。」
「行きました。」
「趣味。」
「始めました。」
「恋愛。」
「しています。」
「運動。」
「しています。」
春木が頭をかいた。
「全部やってる。」
蓮も笑う。
「だから困るんです。」
一人がゆっくり聞いた。
「蓮くん。」
「はい。」
「今、一番怖いことは?」
蓮はすぐには答えなかった。
五分くらい歩いた。
そして小さく言った。
「このまま八十歳になることです。」
春木が止まる。
「え?」
「何となく毎日を過ごして。」
「気づいたら人生が終わる。」
「それが一番怖い。」
一人は静かにうなずいた。
「なるほど。」
「それは大事な話だ。」
双雲は近くの石へ腰を下ろした。
スケッチブックを開く。
今日は少し考えてから、一文字書いた。
「空」
蓮が笑う。
「今の僕ですね。」
双雲もうなずく。
「そう思いました。」
「空っぽ。」
「でも。」
双雲はもう一文字書いた。
「空」
蓮が首をかしげる。
「同じ字?」
「同じです。」
「一つ目の空は、空っぽ。」
「二つ目は、空。」
「空?」
「青い空です。」
蓮は少し考えた。
「同じ字なんですね。」
「はい。」
「空っぽだから悪い。」
「そう決めたのは誰でしょう。」
蓮は黙った。
春木が突然言う。
「よし!」
一人が笑う。
「始まった。」
「今回のポジティブ競争!」
蓮も少し笑う。
「今日は何ですか?」
「誰が一番、人生の意味を見つけられるか!」
一人が吹き出した。
「それは大きすぎるよ。」
双雲も笑う。
「一日では無理ですね。」
春木が考え直す。
「じゃあ変更。」
「誰が一番、小さな楽しみを見つけられるか。」
蓮が言った。
「そのくらいなら。」
春木はすぐ動き始めた。
近くのカフェへ入り、
「この店で一番人気ください。」
と注文する。
蓮は笑う。
「そんなことで人生変わります?」
「変わらない。」
春木も笑う。
「でも、今日の三時のおやつは変わる。」
四人でプリンを食べた。
蓮は一口食べて、
「おいしい。」
と言った。
春木はすぐ指をさす。
「はい、一ポイント!」
「何ですかそれ。」
「今日初めて、自分から『おいしい』って言った。」
蓮は照れ笑いした。
一人はその様子を見ながら言った。
「蓮くん。」
「はい。」
「人生の意味って、見つけるものだと思ってる?」
「違うんですか?」
「俺は。」
一人は少し考える。
「あとから付いてくるものだと思う。」
「付いてくる?」
「人を喜ばせた。」
「誰かに助けられた。」
「夢中になった。」
「そのあと振り返ると。」
「ああ、意味があったなって思う。」
蓮は静かに聞いていた。
「最初から意味を探すと。」
「見つからない?」
「探してる間に人生終わっちゃう。」
蓮は少し笑った。
「確かに。」
そのとき。
近くで外国人観光客が地図を見ながら困っていた。
春木はすぐ立ち上がる。
「行ってきます。」
道を案内する。
駅までの行き方を説明する。
五分ほどして戻ってきた。
「終了。」
蓮が笑う。
「何がですか。」
「今日一個、人の役に立った。」
一人も笑う。
「春木くんらしいね。」
「ポイント二点です。」
双雲は静かに言った。
「蓮くん。」
「はい。」
「最近、人のために時間を使いましたか。」
蓮は考える。
「アルバイトは。」
「仕事ではなく。」
「……。」
答えが出なかった。
「ないかもしれません。」
双雲はうなずく。
「人生が空っぽだと思うとき。」
「実は予定がいっぱいだったりします。」
「でも。」
「全部、自分のためだったりします。」
蓮はハッとした顔をした。
夕方になった。
四人は川辺へ戻る。
夕日が少しずつ沈んでいく。
春木が聞く。
「蓮くん。」
「はい。」
「今日、人生の意味は見つかった?」
蓮は笑った。
「全然。」
三人も笑う。
「でも。」
蓮は続けた。
「探し方が違ったのかもしれません。」
「今までは。」
「意味を探してました。」
「今日は。」
「普通に歩いて。」
「プリン食べて。」
「人が笑って。」
「それだけで少し楽でした。」
一人が言う。
「今日の宿題。」
「何ですか?」
「一週間。」
「毎日一回だけ。」
「誰かを少しだけ喜ばせる。」
「大きくなくていい。」
「コンビニの店員さんへありがとうでもいい。」
「友達へ電話でもいい。」
「家の手伝いでもいい。」
春木が笑う。
「ポイント制にしましょう。」
「一日一ポイント。」
蓮も笑う。
「ゲームみたいですね。」
「人生、少しゲームくらいがちょうどいい。」
双雲は最後に一文字書いた。
「与」
蓮が見る。
「与える。」
「はい。」
「空っぽだと思う日は。」
「何かをもらう日ではなく。」
「誰かへ少しだけ与える日にすると。」
「心が少し動き始めることがあります。」
蓮は紙を見つめた。
「やってみます。」
二週間後。
春木のスマートフォンへ写真が届いた。
地域の子ども食堂。
エプロン姿の蓮が、小学生へカレーをよそっている。
メッセージが添えられていた。
「人生の意味は、まだ分かりません。」
「でも。」
「毎週ここへ来るのが楽しみになりました。」
春木は笑った。
「またポイント増えてる。」
一人も笑う。
「今回は春木くん、一番頑張ったね。」
双雲が静かに紙へ書く。
「灯」
春木が聞く。
「灯ですか。」
「意味を探すより。」
「誰かの小さな灯になる。」
「その積み重ねが。」
「自分の灯にもなるのだと思います。」
三人は静かに京都駅へ向かった。
日本での旅は一区切りを迎えた。
それぞれ違う苦しみを抱えた若者たち。
死にたい夜。
怒りに震えた夜。
空腹で眠れない夜。
責任に押しつぶされそうな夜。
意味を失った静かな夜。
三人は、そのすべてを解決したわけではない。
ただ、一つだけ確信したことがあった。
ポジティブとは、「大丈夫」と言い聞かせることではない。
その人が、もう一日だけ歩いてみようと思える、小さな理由を一緒に見つけること。
その頃、海の向こうの韓国では、三人の女性が別の若者たちと出会う準備を始めていた。
競争、夢、外見、家族。
日本とは少し違う苦しみの中で、彼女たちもまた、自分たちなりの「希望」を探し始めようとしていた。
おわりに

5人の若者の問題は、最後まで完全には消えません。
다섯 청년의 문제는 마지막까지 완전히 사라지지 않습니다.
それでいいのだと思います。
그래도 괜찮다고 생각합니다.
人生は、誰かの一言ですべてが解決するほど単純ではありません。
인생은 누군가의 한마디로 모든 것이 해결될 만큼 단순하지 않습니다.
悠斗は、人生の結論を今日出さないことを選びました。
유토는 오늘 인생의 결론을 내리지 않기로 선택했습니다.
翔太は、怒りを誰かへぶつける代わりに、自分の未来を守ることを選びました。
쇼타는 분노를 누군가에게 쏟는 대신 자신의 미래를 지키는 쪽을 선택했습니다.
健太は、助けを受け取ることも一つの強さだと知りました。
켄타는 도움을 받는 것 역시 하나의 강함이라는 것을 알게 됐습니다.
美咲は、「私が全部やらなければ」という責任を家族と分け始めました。
미사키는 “내가 전부 해야 한다”는 책임을 가족과 나누기 시작했습니다.
蓮は、人生の意味を見つける前に、小さな喜びを感じることから始めました。
렌은 삶의 의미를 찾기 전에 작은 기쁨을 느끼는 것부터 시작했습니다.
どれも、大きな奇跡ではありません。
어느 것도 거대한 기적은 아닙니다.
けれど、人がもう一日生きるために必要なのは、いつも大きな希望とは限りません。
하지만 사람이 하루를 더 살아가기 위해 필요한 것이 언제나 거대한 희망인 것은 아닙니다.
温かい食事。
따뜻한 한 끼.
誰かとの会話。
누군가와의 대화.
少し休む時間。
잠시 쉬는 시간.
「助けて」と言える場所。
“도와줘”라고 말할 수 있는 곳.
そして、昨日とは少し違う選択。
그리고 어제와는 조금 다른 선택.
ポジティブとは、苦しみを無かったことにすることではないのかもしれません。
긍정이란 고통을 없었던 일로 만드는 것이 아닐지도 모릅니다.
暗い場所にいる自分を責めず、次の一歩が見えるくらいの小さな光を探すこと。
어두운 곳에 있는 자신을 탓하지 않고, 다음 한 걸음을 볼 수 있을 만큼의 작은 빛을 찾는 것.
それが、この5つの物語で3人と若者たちが一緒に見つけたポジティブでした。
그것이 이 다섯 이야기에서 세 사람과 청년들이 함께 발견한 긍정이었습니다.
登場人物紹介 (등장인물 소개)
斎藤一人
사이토 히토리
日本の実業家・著述家。人生、幸せ、言葉、考え方について独自の哲学を語り続けてきました。この物語では、苦しい出来事そのものよりも「その出来事をどう見るか」という視点から若者たちに寄り添います。
일본의 사업가이자 저술가. 삶, 행복, 말, 사고방식에 관한 독특한 철학을 전해왔습니다. 이 이야기에서는 힘든 사건 자체보다 ‘그 일을 어떻게 바라볼 것인가’라는 시선으로 청년들과 함께합니다.
春木開
하루키 카이
日本の実業家・インフルエンサー。「ポジティブが足りない」というメッセージでも知られています。この物語では、考えるだけで終わらず「今日できる小さな行動」を見つける役割を担います。
일본의 사업가이자 인플루언서. ‘긍정이 부족하다’는 메시지로도 알려져 있습니다. 이 이야기에서는 생각에서 끝나지 않고 ‘오늘 할 수 있는 작은 행동’을 찾는 역할을 합니다.
武田双雲
다케다 소운
日本を代表する書道家の一人。書を通して感情や人生の見方を表現してきました。この物語では「延」「選」「受」「分」「与」という一文字を通じ、若者たちが自分の状況を別の角度から見るきっかけを作ります。
일본을 대표하는 서예가 중 한 명. 글씨를 통해 감정과 삶을 바라보는 시선을 표현해왔습니다. 이 이야기에서는 ‘延’, ‘選’, ‘受’, ‘分’, ‘与’라는 한 글자를 통해 청년들이 자신의 상황을 다른 각도에서 바라볼 계기를 만듭니다.
この作品の対話と出来事は、実在する人物の公的な考え方やイメージから着想を得て創作した架空の物語です。実際の発言や出来事を再現したものではありません。
이 작품의 대화와 사건은 실존 인물의 공개된 생각과 이미지에서 영감을 받아 창작한 가상의 이야기입니다. 실제 발언이나 사건을 재현한 것이 아닙니다.

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