
はじめに
『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』というタイトルを読むと、最初は少し無理なことを求められているように感じるかもしれません。
深く傷ついた経験を、本当に忘れられるのでしょうか。大切な人を失った悲しみを、本当に「乗り越える」必要があるのでしょうか。
リュ・シファが世界各地から集めた77篇の詩をさらに深く読んでいくと、この本が問いかけているのは恋愛や心の傷だけではないことが見えてきます。
愛、喪失、悲しみ、感謝、信仰、死、そして今を生きること。
今回の架空の対話では、リュ・シファと、愛着、セルフ・コンパッション、悲嘆、感謝、宗教心理学、実存心理学を研究してきた専門家たちが、この本から生まれる25の問いを考えます。
傷を消すことがHealingなのか。悲しみには意味が必要なのか。なぜ幸せは失ってから見えるのか。苦しいとき、人はなぜ神を求めるのか。そして、なぜ私たちは人生を「いつか」まで延期してしまうのか。
最後に残るのは、一つの大きな問いです。
人生が完全になるのを待たずに、不完全な人生そのものを愛することはできるのでしょうか?
(本稿に記されている対話はすべて仮想のものであり、実在の人物・発言とは関係ありません。)
Topic 1: 傷ついた人は、それでももう一度愛せるのか?

司会:
最初は、やはりこの本のタイトルそのものから始めたいと思います。
『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』。
とても美しい言葉です。
でも正直に言うと、私は少し怖い言葉でもあると思うんです。
たとえば、愛していた人に裏切られた人。
何十年も信じていた配偶者から傷つけられた人。
親から愛されなかった人。
友人に裏切られた人。
あるいは、一度誰かを心から信じたために、その後何年も立ち直れなくなった人。
そういう人に、
「一度も傷ついたことがないかのように愛しなさい」
と言ったら、
場合によっては残酷ではないでしょうか。
リュ・シファ:
そうですね。
だから私は、この言葉を、
「傷を忘れなさい」
という意味では読んでほしくありません。
傷ついたことは、なかったことにはできません。
人は経験したことを持って生きていきます。
スー・ジョンソン:
心理学的にも、そこはとても重要です。
深く傷ついた経験は、単なる「嫌な思い出」ではありません。
特に、自分にとって重要だった人との関係で傷つくと、
人は次の関係に入るときにも、
「また同じことが起こるのではないか」
と感じるようになります。
それは弱さではありません。
心が、
「もう同じ危険に遭わないようにしよう」
と学んだ結果でもあります。
司会:
では、傷ついたあとに人を信じられなくなるのは、ある意味では自然なんですね。
スー・ジョンソン:
とても自然です。
たとえば、ある人が深く愛した相手から突然裏切られたとします。
次の人がどれだけ誠実でも、
少し返信が遅いだけで不安になるかもしれない。
少し態度が変わっただけで、
「もう私を愛していないのでは?」
と思うかもしれない。
その人は、目の前の相手だけを見ているのではありません。
過去の経験も一緒に見ているんです。
司会:
それは少し悲しいですね。
新しい人は、何もしていないのに。
スー・ジョンソン:
そうです。
でも、そこで傷ついた人を責めても意味はありません。
まず、
「なぜ私はこんなに怖いのだろう?」
と自分を責めるのではなく、
「私は一度、本当に傷ついたから怖いんだ」
と理解することが必要です。
クリスティン・ネフ:
そこにセルフ・コンパッションが必要になります。
傷ついた人によく起こることがあります。
誰かに傷つけられたあと、
今度は自分自身を傷つけ始めるんです。
「どうしてあんな人を信じたんだろう。」
「私が馬鹿だった。」
「見る目がなかった。」
「私に価値がないから捨てられたんだ。」
つまり、一人の人に傷つけられたあと、
自分まで自分の敵になってしまう。
司会:
それは確かにありますね。
傷そのものより、
「なぜ自分はあんなことを許してしまったんだ」
という自己嫌悪のほうが長く残ることもある。
クリスティン・ネフ:
そうです。
だからHealingの最初の一歩は、
必ずしも、
「もう一度誰かを信じること」
ではありません。
まず、
傷ついたときに、自分まで自分の敵にならない人になること。
そこから始めてもいいんです。
司会:
でも、ここで少し難しい質問をしたいです。
もし傷つかないために人を信じないと決めたら、
実際、それはかなり合理的ではありませんか?
誰も深く愛さない。
誰にも期待しない。
心の中に入れない。
そうすれば、大きく傷つく可能性は減ります。
アーヴィン・ヤーロム:
減るでしょう。
しかし、そこで別の問いが生まれます。
「傷つかないこと」が人生の最終目的なのでしょうか。
司会:
……なるほど。
アーヴィン・ヤーロム:
完全に安全な人生を作ろうとすれば、
多くのものを避けなければなりません。
愛。
友情。
挑戦。
夢。
親密さ。
誰かを必要とすること。
誰かに自分を見せること。
それらにはすべて、不確実性があります。
だから、
傷つかないために心を閉じるという選択は、
論理的には理解できます。
ただし、その代償もあります。
司会:
孤独ですか?
ヤーロム:
孤独だけではありません。
人生に触れないことです。
リュ・シファ:
だから、
「もう傷つかないように生きる」
という人生と、
「傷つく可能性があっても愛する」
という人生の間に、
この本の問いがあるのだと思います。
司会:
でも、それを聞くと、
また「傷つく覚悟で愛せ」という精神論になりませんか?
危険な相手のところへ戻る必要はないですよね。
スー・ジョンソン:
もちろんありません。
ここは非常に重要です。
愛することと、安全を無視することは別です。
傷ついた経験から境界線を学ぶことは、とても大切です。
司会:
境界線。
スー・ジョンソン:
はい。
でも私は、
境界線と壁は違う
と考えると分かりやすいと思います。
境界線は、
「ここから先は私を傷つけないでください」
と言います。
壁は、
「誰も入ってこないでください」
と言います。
境界線には、
扉があります。
司会:
それは面白いですね。
傷ついたあとに必要なのは、
壁ではなく、扉のある境界線かもしれない。
クリスティン・ネフ:
そして、その扉をいつ開けるかは本人が決めていいんです。
急ぐ必要はありません。
「もう一年経ったから。」
「新しい恋をしたほうがいい。」
「そろそろ許したほうがいい。」
そういう外からの時間表に合わせる必要もありません。
司会:
では、Forgiveness、Trust、Reconciliation、Love。
これらは全部別なのでしょうか?
クリスティン・ネフ:
別です。
スー・ジョンソン:
とても大切な区別です。
Forgiveness、赦し。
Trust、信頼。
Reconciliation、関係の修復。
Love、愛。
これらを全部一つにしてしまうと、
傷ついた人をさらに苦しめることがあります。
司会:
たとえば?
スー・ジョンソン:
誰かを赦したからといって、
もう一度その人を信頼する義務はありません。
赦したからといって、
関係を再開する必要もありません。
誰かをまだ愛していても、
その人と一緒にいることが安全とは限りません。
逆に、
関係を終わらせても、
憎しみ続ける必要はありません。
司会:
これはかなり重要ですね。
「愛するなら戻るべきだ」
ではない。
スー・ジョンソン:
まったく違います。
リュ・シファ:
もしかすると、
「一度も傷ついたことがないかのように愛する」
という言葉の中で、
一番大切なのは、
「かのように」
なのかもしれません。
司会:
どういう意味でしょう?
リュ・シファ:
傷つかなかったことにするのではありません。
傷はあります。
記憶もあります。
警戒心もあるでしょう。
それでも、
その傷に、これからの人生のすべてを決めさせない。
そういう意味で、
「かのように」
なのではないでしょうか。
司会:
つまり、
傷を消してから愛するのではない。
リュ・シファ:
そうです。
傷ついた自分を連れて愛する。
司会:
でも、新しい人を信じようとすると、
過去の人がしたことを思い出してしまいます。
「前の人も最初は優しかった。」
「前の人も愛してると言った。」
そう思ったら、どうすればいいでしょう。
スー・ジョンソン:
その恐怖を否定しなくていいんです。
ただ、一つ覚えておきたいことがあります。
昨日の人にされたことを、今日の人の罪にしない。
司会:
かなり難しいですね。
スー・ジョンソン:
難しいです。
だから一度に全面的に信頼する必要はありません。
信頼は決断ではなく、
多くの場合、
経験の積み重ね
です。
この人は約束を守った。
私が弱さを見せても利用しなかった。
私が「嫌だ」と言ったとき、尊重してくれた。
喧嘩をしても逃げなかった。
間違えたとき、謝った。
そういう小さな経験が、
古い経験とは違う新しい記憶を作っていきます。
ロバート・エモンズ:
ここには、もう一つ重要なことがあります。
傷ついた人は、
危険を見つける能力が非常に高くなることがあります。
それ自体は悪いことではありません。
しかし、危険だけを見るようになると、
安全の証拠が見えなくなることがあります。
司会:
安全の証拠?
ロバート・エモンズ:
はい。
「この人は今日も約束を守った。」
「この友人は話を聞いてくれた。」
「この人の前では少し安心できた。」
そうした小さなものです。
感謝というと、
「人生は素晴らしいと思いなさい」
という話に聞こえるかもしれません。
でもそうではありません。
苦しみがあることを認めながら、
苦しみ以外に存在しているものにも気づく。
それが重要です。
司会:
つまり、
「この人も私を傷つけるかもしれない」
という可能性と、
「この人は今のところ私を大切にしている」
という現実を、
同時に持つ。
ロバート・エモンズ:
そうです。
ケネス・パーガメント:
信仰の世界でも似たことがあります。
人間に裏切られたことで、
神まで信じられなくなる人がいます。
宗教共同体で傷ついた人なら、
祈ることそのものが苦しくなる場合もあります。
その人に、
「もっと信じなさい」
と言うだけでは助けになりません。
司会:
信仰にも傷がある。
ケネス・パーガメント:
あります。
だからHealingは、
昔の状態へ戻ることとは限りません。
以前と同じ信じ方に戻らなくてもいい。
以前と同じ愛し方に戻らなくてもいい。
人は傷ついたあと、
より慎重で、
より深く、
より正直な関係を作ることもできます。
司会:
では最後に、皆さんに一つだけ聞きたいです。
Topic 2:悲しみは「乗り越える」ものなのか、それとも人生の模様の一部になるのか?

湖の霧は、ほとんど消えていた。
Topic 1の最後に、ジョージ・ボナーノが口にした問いだけが、その場に残っていた。
ジョージ・ボナーノ:
「人は悲しんだら、必ず何かを乗り越えなければならないのでしょうか?」
司会は彼を見た。
司会:
「どういう意味ですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「私たちはよく言いますよね。」
「悲しみを乗り越える。」
「喪失を克服する。」
「前へ進む。」
「立ち直る。」
少し間を置いた。
ジョージ・ボナーノ:
「でも、その言葉の中には、ある前提が隠れていることがあります。」
司会:
「どんな前提ですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「悲しみとは、できるだけ早く通過して、向こう側へ行くべき場所だという前提です。」
クリスティン・ネフが窓辺から振り返った。
クリスティン・ネフ:
「そして、なかなか向こう側へ行けない人は、自分がおかしいのではないかと思い始める。」
司会:
「一年経ったのにまだ悲しい。」
クリスティン・ネフ:
「ええ。」
司会:
「三年経ったのに、写真を見ると泣いてしまう。」
クリスティン・ネフ:
「そうです。」
司会:
「みんな普通に生活しているのに、自分だけ取り残されたように感じる。」
クリスティン・ネフ:
「そして悲しみに加えて、もう一つ苦しみが生まれます。」
司会:
「『私はまだ立ち直れていない』という苦しみ?」
クリスティン・ネフ:
「そうです。」
ジョージは湖のそばにある濡れた石に腰を下ろした。
ジョージ・ボナーノ:
「悲嘆について、長い間かなり強いイメージがありました。」
「大きな喪失を経験したら、人は深く崩れる。」
「そこから一定の過程を通って、少しずつ回復していく。」
「でも実際の人間は、そんなに一つの道を歩きません。」
司会:
「どう違うんでしょう?」
ジョージ・ボナーノ:
「長い間、強い悲しみが続く人もいます。」
「一度かなり落ち込んでから、徐々に日常へ戻る人もいます。」
「そして、大切な人を失って深い悲しみを感じながらも、比較的早い段階から仕事をし、笑い、人と会い、生活を続けられる人もいます。」
司会:
「それは、本当にその人を愛していたんでしょうか?」
ジョージはすぐには答えなかった。
ジョージ・ボナーノ:
「なぜ、そう思いましたか?」
司会は少し困った顔をした。
司会:
「分かりません。」
「でも……。」
「たとえば、30年間一緒にいた妻を亡くした夫が、数週間後には友人と食事をして笑っている。」
「それを見たら、周りの人は少し思うかもしれません。」
「もう元気なの?」
ジョージがうなずいた。
司会:
「逆に、何年も悲しんでいる人を見ると……。」
「それだけ深く愛していたんだね。」
「と言う。」
ジョージ・ボナーノ:
「そこには、とても危険な式があります。」
司会:
「式?」
ジョージは指で空中に書くようにした。
悲しみの大きさ = 愛の大きさ
ジョージ・ボナーノ:
「でも、人間はそんなに単純ではありません。」
リュ・シファは、それまで黙って聞いていた。
司会が彼を見る。
司会:
「リュ・シファさん。」
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「今回、この本について調べていて、私が知らなかったことがありました。」
リュ・シファは静かに待った。
司会:
「この本を、鄭埰琫さんに捧げているんですね。」
少し空気が変わった。
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「もともと、一緒にこの本を作ろうとしていた。」
リュ・シファ:
「そうです。」
司会:
「でも、その約束を果たす前に亡くなった。」
リュ・シファ:
「はい。」
しばらく、誰も話さなかった。
鳥が一羽、湖面すれすれを飛んでいった。
司会:
「だとすると……。」
「この本は、悲しんでいる人を外から見て選んだ詩集ではないんですね。」
リュ・シファは湖を見たまま答えた。
リュ・シファ:
「人が誰かを失うと、不思議なことが起きます。」
「その人がいなくなったのに、その人との会話は終わらない。」
司会は黙って聞いている。
リュ・シファ:
「何か美しいものを見る。」
「すると、見せたくなる。」
「面白い言葉を読む。」
「すると、話したくなる。」
「本が完成する。」
「すると、本当なら最初に渡したかった人がいない。」
少し沈黙した。
リュ・シファ:
「死によって人はいなくなります。」
「でも、関係までその瞬間に消えるわけではないのでしょう。」
司会:
「では、一つ目の質問です。」
「愛する人を失ったとき、正しい悲しみ方はあるのでしょうか?」
ジョージ・ボナーノ:
「一つの正しい形がある、と考えないほうがいいでしょう。」
司会:
「では、泣かなくてもいい?」
ジョージ・ボナーノ:
「泣くことだけが悲嘆ではありません。」
司会:
「仕事に戻ってもいい?」
ジョージ・ボナーノ:
「もちろんです。」
司会:
「笑っても?」
ジョージ・ボナーノ:
「もちろん。」
司会:
「新しい人を愛しても?」
ジョージは少し微笑んだ。
ジョージ・ボナーノ:
「それも、その人の人生です。」
司会はリュ・シファを見る。
司会:
「でも、罪悪感を感じる人もいるでしょうね。」
リュ・シファがうなずいた。
司会:
「自分だけ笑っていいのか。」
「自分だけ旅行していいのか。」
「自分だけ美味しいものを食べていいのか。」
「自分だけ幸せになっていいのか。」
クリスティンが静かに入った。
クリスティン・ネフ:
「そこで、自分に一つ質問してみてもいいと思います。」
司会:
「何でしょう?」
クリスティン・ネフ:
「あなたが亡くなった側だったら、愛する人にどう生きてほしいですか?」
司会の表情が止まった。
クリスティン・ネフ:
「あなたのことを忘れないために、残りの人生をずっと苦しんでいてほしいでしょうか。」
誰も答えなかった。
クリスティン・ネフ:
「それとも、ときどきあなたを思い出して泣きながら、それでも笑い、食べ、誰かを愛し、生きてほしいでしょうか。」
司会が小さく言った。
司会:
「後者ですね。」
少しして司会がジョージに尋ねた。
司会:
「でも逆の場合はどうですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「逆?」
司会:
「十年経っても悲しい。」
「ある曲を聞いた瞬間に涙が出る。」
「亡くなった妻の誕生日になると、何もする気になれない。」
「それは、まだ回復していないということですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「その一つの瞬間だけでは、そう判断できません。」
「悲しみが残っていることと、人生が止まっていることは同じではありません。」
司会が少し考える。
司会:
「Topic 1と似ていますね。」
ジョージ・ボナーノ:
「どういうところが?」
司会:
「傷が残っていることと、傷に支配されていることは違う。」
ジョージがうなずいた。
司会:
「悲しみが残っていることと、悲しみに人生全部を支配されていることも違う。」
ジョージ・ボナーノ:
「そう考えることができます。」
司会は庭を歩き始めた。
しばらくして、別の問いを投げた。
司会:
「では二つ目です。」
「苦しみには、本当に意味があるのでしょうか?」
誰もすぐには答えなかった。
司会:
「よく聞く言葉があります。」
「すべてのことには意味がある。」
「この苦しみにも意味がある。」
「この経験があなたを成長させる。」
司会はリュ・シファを見る。
司会:
「本当でしょうか?」
リュ・シファは少し考えた。
リュ・シファ:
「私は、苦しんでいる人にそれを簡単には言えません。」
司会:
「なぜ?」
リュ・シファ:
「その人の苦しみの意味を、私が知っているはずがないからです。」
司会がうなずく。
司会:
「でもHealing Poemという考えがありますよね。」
リュ・シファ:
「あります。」
司会:
「だったら、詩によって傷が癒やされる?」
リュ・シファは首を少し傾けた。
リュ・シファ:
「『癒やす』という言葉をどう理解するかでしょう。」
「傷がなくなることなら、詩にはできません。」
「死んだ人を戻すこともできません。」
「起きた出来事を、起きなかったことにもできません。」
司会:
「では、詩に何ができる?」
リュ・シファ:
「自分の痛みを、自分だけのものではなくすること。」
司会は彼を見る。
リュ・シファ:
「何百年前の人が、自分と同じように悲しんでいた。」
「違う国の人が、自分には言葉にできなかったことを書いていた。」
「それを読むと、痛みが消えなくても……。」
少し言葉を探した。
リュ・シファ:
「孤独の形が変わることがあります。」
クリスティンが言った。
クリスティン・ネフ:
「これはとても大切だと思います。」
「人は苦しむと、『なぜ私はこんなことになったのだろう』と思います。」
「そして、その苦しみの中で孤立しやすくなります。」
「でも苦しむこと自体は、人間であることの一部でもあります。」
司会が尋ねる。
司会:
「では、苦しみには意味がある?」
クリスティン・ネフ:
「私は、その二つを分けたいです。」
「この苦しみには意味がある。」
と、
「私はこの苦しみのあとに、意味を作ることができるかもしれない。」
「これは同じではありません。」
司会はゆっくりうなずいた。
司会:
「一つ目は、起きた出来事そのものを説明している。」
クリスティン・ネフ:
「そうです。」
司会:
「二つ目は、これから自分がどう生きるかを話している。」
クリスティン・ネフ:
「そうです。」
ジョージが加わった。
ジョージ・ボナーノ:
「そして、意味を作らなくてもいい人もいます。」
司会が振り返った。
司会:
「作らなくてもいい?」
ジョージ・ボナーノ:
「すべての喪失から人生哲学を作る必要はありません。」
「成長しなければならないわけでもありません。」
「より強い人にならなければならないわけでもない。」
「起きたことを悲しみながら、生活を続ける。」
「それだけでもいいのです。」
司会が笑った。
司会:
「それ、少し安心します。」
ジョージ・ボナーノ:
「なぜですか?」
司会:
「最近は、何か辛いことが起きるたびに、『この経験から何を学びましたか?』と聞かれるような気がするからです。」
クリスティンも笑った。
司会:
「たまには、『何も学びませんでした。辛かったです』でもいい?」
クリスティン・ネフ:
「もちろんです。」
リュ・シファも微笑んだ。
リュ・シファ:
「それも、とても正直な詩になりそうですね。」
昼に近づき、雲の間から少しずつ光が差してきた。
湖面の色も変わっていた。
司会はその光を眺めながら、三つ目の問いを出した。
司会:
「では最後です。」
「悲しみを抱えたまま、人は幸せになれるのでしょうか?」
リュ・シファが聞き返した。
リュ・シファ:
「なぜ、なれないと思うのですか?」
司会:
「幸せと悲しみは反対だから。」
ジョージが首を振った。
ジョージ・ボナーノ:
「人間の感情は、そこまできれいに分かれていません。」
司会:
「同時に存在できる?」
ジョージ・ボナーノ:
「できます。」
「悲しみながら笑う。」
「誰かを恋しく思いながら、新しい誰かを愛する。」
「失ったものを思いながら、今あるものを楽しむ。」
「それは矛盾ではありません。」
リュ・シファが庭の木を指した。
昨夜の雨で、いくつかの葉が地面に落ちている。
その一方で、雲の切れ間から差す光を受けている葉もある。
リュ・シファ:
「私はこの本の最後に、『人生を一つの模様として見る』ということについて書きました。」
司会が彼を見る。
リュ・シファ:
「模様には、一つの色だけがあるわけではありません。」
「明るい糸だけでもない。」
「暗い糸だけでもない。」
「一本だけを見れば、なぜそこにその色があるのか分からないこともあります。」
「でも少し離れて見ると、それらが一つの模様になっている。」
司会:
「では、悲しみもその糸の一本?」
リュ・シファ:
「そう考えることもできるでしょう。」
司会は少し考えた。
司会:
「でも、それって悲しみを美化していませんか?」
リュ・シファはすぐに答えなかった。
リュ・シファ:
「美しい模様を作るために、悲劇が必要だと言っているのではありません。」
「苦しんだほうが良い、と言っているのでもない。」
「もし避けられる苦しみなら、避けたほうがいい。」
「救える命なら、救うべきです。」
「修復できる関係なら、努力してもいい。」
「治療できる病気なら、治療する。」
「ただ……。」
彼は地面に落ちた葉を見る。
リュ・シファ:
「すでに起きてしまったことまで、自分の人生ではなかったことにはできません。」
司会は長い間黙っていた。
そして、ぽつりと言った。
司会:
「もしかすると私は、Healingという言葉を勘違いしていたのかもしれません。」
クリスティン・ネフ:
「どういうふうに?」
司会:
「傷がなくなることだと思っていました。」
「もう思い出しても痛くない。」
「もう泣かない。」
「もう寂しくない。」
「そこまで行ったら、回復した。」
ジョージが聞いている。
司会:
「でも、もしかすると……。」
少し考えた。
「Healingとは、悲しみが消えることではなく、悲しみがあっても人生全体が悲しみだけではなくなることなのかもしれませんね。」
誰もすぐには答えなかった。
リュ・シファは湖を見ていた。
ジョージが静かに言った。
ジョージ・ボナーノ:
「私は、その表現が好きです。」
そのとき、ロバート・エモンズが家の扉を開けて外へ出てきた。
手には古い写真が一枚あった。
ロバート・エモンズ:
「皆さんの話を中で聞いていました。」
司会が写真を見る。
司会:
「それは?」
ロバートは写真を差し出した。
写っているのは、どこにでもありそうな家族の食卓だった。
豪華な料理ではない。
特別な日でもない。
誰かが笑っている。
テーブルには食べかけの皿。
椅子の下には犬。
一人は携帯電話を見ている。
一人は誰かに話しかけている。
ロバート・エモンズ:
「この写真を見て、どう思いますか?」
司会はしばらく眺めた。
司会:
「幸せそうですね。」
ロバートが尋ねた。
ロバート・エモンズ:
「でも、この瞬間にこの家族は、自分たちが幸せだと分かっていたでしょうか?」
司会は写真をもう一度見た。
そして、少し笑った。
司会:
「たぶん……。」
「分かっていなかったでしょうね。」
ロバート・エモンズ:
「なぜでしょう?」
司会は答えられなかった。
湖には、もう朝の霧は残っていなかった。
目の前にあったものが、ようやく見えるようになっていた。
そして会話は、
Topic 3
「なぜ私たちは、人生が起きている『今』を見失うのか?」
へと続いていった。
Topic 3:なぜ私たちは、人生が起きている「今」を見失うのか?

ロバート・エモンズが差し出した写真を、司会はまだ手に持っていた。
どこにでもありそうな食卓だった。
豪華な料理はない。
特別な飾りもない。
誰かが笑っている。
一人は携帯電話を見ている。
椅子の下には犬がいる。
おそらく、この写真が撮られた数分後には誰かが皿を片づけ、誰かがテレビをつけ、誰かが「明日早いから」と部屋へ戻ったのだろう。
司会:
「不思議ですね。」
ロバート・エモンズ:
「何がですか?」
司会:
「この写真を見ていると、幸せそうに見える。」
「でも、この瞬間にこの人たちは……。」
写真をもう一度見る。
司会:
「たぶん、『私は今、幸せだ』なんて考えていなかったでしょうね。」
ロバート・エモンズ:
「おそらく。」
司会:
「では、なぜ後になって分かるんでしょう?」
ロバートは答える代わりに聞いた。
ロバート・エモンズ:
「あなたにも、そういう時間がありますか?」
司会は少し笑った。
司会:
「たくさんあります。」
「昔は面倒だったことが、今になると懐かしい。」
「家の中がうるさい。」
「誰かが冷蔵庫を開けっぱなしにする。」
「送っていかなければならない。」
「迎えに行かなければならない。」
「何度言っても片づけない。」
少し間を置いた。
司会:
「そのときは、『少し静かにならないかな』と思う。」
「でも本当に静かになると……。」
司会は言葉を止めた。
クリスティン・ネフが静かに尋ねた。
クリスティン・ネフ:
「どうなりますか?」
司会:
「あのうるささが、幸せだったと分かる。」
誰もすぐには話さなかった。
ロバート・エモンズ:
「人間には、良いものにも慣れる性質があります。」
司会:
「幸せにも慣れてしまう?」
ロバート・エモンズ:
「そうです。」
「新しい家。」
「新しい仕事。」
「結婚。」
「健康。」
「家族。」
「最初は特別だったものが、少しずつ日常になります。」
司会:
「それは悪いことですか?」
ロバート・エモンズ:
「必ずしも。」
「もし毎朝、目を覚ますたびに『私は生きている!』と驚き、蛇口から水が出るたびに感動していたら、生活するのも大変でしょう。」
司会が笑った。
司会:
「確かに。」
ロバート・エモンズ:
「慣れることは、人間が生活するために必要でもあります。」
「ただ、その便利な能力には代償があります。」
司会:
「何でしょう?」
ロバート・エモンズ:
「大切なものまで、背景になってしまうことです。」
司会は写真を見た。
司会:
「では一つ目の質問です。」
「なぜ普通の日は、失ってから美しく見えるのでしょう?」
ジョージ・ボナーノが口を開いた。
ジョージ・ボナーノ:
「一つ気をつけたいことがあります。」
司会:
「何ですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「過去は、写真ほど正確ではありません。」
司会:
「どういう意味ですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「私たちは過去を思い出すとき、その時代のすべてを再生しているわけではありません。」
「子どもが小さかった頃を懐かしく思う。」
「でも当時は、睡眠不足だったかもしれない。」
「お金の心配をしていたかもしれない。」
「夫婦喧嘩もあったかもしれない。」
「仕事に疲れていたかもしれない。」
司会が笑った。
司会:
「思い出の中では、その部分が少し消えている。」
ジョージ・ボナーノ:
「そういうこともあります。」
司会:
「では、『昔は幸せだった』というのは錯覚ですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「そうとも限りません。」
「大切なのは、過去を完璧だった場所に変えないことです。」
クリスティンが加わる。
クリスティン・ネフ:
「ここはとても重要ですね。」
「過去を美しくしすぎると、今が必ず負けます。」
司会:
「なるほど。」
クリスティン・ネフ:
「20年前の一番美しい記憶と、今日の疲れた午後を比べてしまう。」
「それでは現在は勝てません。」
リュ・シファが写真を受け取った。
リュ・シファ:
「でも、この写真にはもう一つ面白いところがあります。」
司会:
「何でしょう?」
リュ・シファ:
「誰もこちらを見ていません。」
確かにそうだった。
誰かは食べている。
誰かは話している。
犬は床を見ている。
リュ・シファ:
「つまり、この人たちは『思い出を作ろう』としていない。」
「ただ生きている。」
司会が写真を見る。
リュ・シファ:
「人生の大部分は、こういう時間ではないでしょうか。」
「後から振り返って意味が分かる。」
「でも、その瞬間には名前がついていない。」
司会:
「幸せなのに、幸せと呼ばれていない。」
リュ・シファ:
「そうです。」
ロバートが司会に尋ねた。
ロバート・エモンズ:
「もし、この写真の家族に一つだけ教えられるとしたら、何と言いますか?」
司会は考えた。
司会:
「この時間は、いつまでも続かないよ。」
言った瞬間、少し寂しい表情になった。
司会:
「でも、それを毎日考えていたら、悲しくなりませんか?」
メアリー・オリヴァーはPart 1の参加者だったため、今回はいない。
代わりにリュ・シファが答えた。
リュ・シファ:
「毎秒考える必要はないでしょう。」
「時々でいいのではありませんか。」
司会:
「時々?」
リュ・シファ:
「この人と食べる夕食にも、最後の日がある。」
「この犬と歩く散歩にも、最後の日がある。」
「親から電話がかかってくる日にも、最後がある。」
「自分の足で歩ける日にも、最後がある。」
「でも、それが今日だとは限りません。」
少し微笑んだ。
リュ・シファ:
「だから、今日を葬式のように生きる必要はありません。」
司会も笑った。
リュ・シファ:
「ただ、ときどき思い出す。」
「これは永遠ではない。」
「それだけで、見え方が少し変わることがあります。」
司会は湖のほうへ歩き出した。
司会:
「でも、人間にはもう一つ問題があります。」
ロバート・エモンズ:
「何でしょう?」
司会:
「今あるものより、ないものばかり見てしまう。」
「もっとお金があれば。」
「もっと良い家だったら。」
「もっと成功したら。」
「もっと自由だったら。」
「もっと時間があったら。」
「もっと健康だったら。」
そして聞いた。
「なぜ人間は、『あるもの』より『ないもの』を見るのでしょう?」
ロバートは少し考えた。
ロバート・エモンズ:
「人間が問題を見つける能力は、生存に役立ってきました。」
「危険。」
「不足。」
「うまくいっていないこと。」
「そうしたものに注意を向けることには意味があります。」
司会:
「つまり、不満を見つける能力そのものが悪いわけではない。」
ロバート・エモンズ:
「そうです。」
「問題は、それが唯一の見方になることです。」
司会は笑った。
司会:
「冷蔵庫に食べ物が99個あっても、ない1個を探しているようなものですね。」
ロバート・エモンズ:
「まさに。」
司会:
「では、感謝すれば解決しますか?」
ロバート・エモンズ:
「そんなに単純ではありません。」
司会:
「安心しました。」
みんなが笑った。
司会:
「正直、『毎朝感謝することを10個書きましょう』と言われると、それ自体が仕事になりそうで。」
ロバートも笑った。
ロバート・エモンズ:
「感謝は、現実の問題を否定することではありません。」
「病気なら、病気です。」
「関係が苦しいなら、苦しい。」
「経済的に困っているなら、その問題は現実です。」
司会:
「では感謝とは?」
ロバート・エモンズ:
「苦しいものだけが現実ではない、と見る能力でもあります。」
司会の表情が変わった。
ロバート・エモンズ:
「今日、苦しいことがある。」
「それは事実。」
「同時に、誰かが自分を気にかけてくれている。」
「それも事実かもしれない。」
「身体の一部が痛む。」
「それも事実。」
「でも、自分の足で庭まで歩けた。」
「それも事実。」
クリスティン・ネフ:
「片方を消す必要はないんですね。」
ロバート・エモンズ:
「そうです。」
司会:
「Topic 2と同じだ。」
ジョージ・ボナーノ:
「何がですか?」
司会:
「悲しいか、幸せか。」
「どちらか一つではなかった。」
「今も同じ。」
「苦しいか、ありがたいか。」
「どちらか一つを選ばなくてもいい。」
しばらくして司会が言った。
司会:
「でも、もっと大きな問題があります。」
全員が彼を見る。
司会:
「私たちは、現在そのものを後回しにしていませんか?」
リュ・シファが少し微笑んだ。
司会:
「若い頃は……。」
「学校を卒業したら。」
「卒業したら……。」
「良い仕事に就いたら。」
「仕事に就いたら……。」
「もっとお金ができたら。」
「結婚したら。」
「家を買ったら。」
「子どもが大きくなったら。」
「仕事が落ち着いたら。」
「退職したら。」
司会は笑った。
司会:
「人生、いつ始まるんですか?」
リュ・シファは答えなかった。
代わりに司会へ尋ねた。
リュ・シファ:
「あなたは、いつ始まると思っていましたか?」
司会は考えた。
司会:
「たぶん……。」
「何かが整ったら。」
リュ・シファ:
「何が?」
司会:
「全部です。」
みんなが笑った。
司会:
「お金。」
「仕事。」
「家族。」
「健康。」
「時間。」
「心配事。」
「それらが全部ちょうど良くなったら、ようやく安心して人生を楽しめる。」
リュ・シファ:
「そんな時期はありましたか?」
司会は笑いながら首を振った。
司会:
「ないですね。」
ロバートが尋ねた。
ロバート・エモンズ:
「では、問題は人生でしょうか。」
「それとも条件でしょうか。」
司会:
「どういう意味ですか?」
ロバート・エモンズ:
「人生が始まっていなかったのではありません。」
「人生を楽しんでいい条件を、自分で未来に置いていたのかもしれない。」
司会は黙った。
リュ・シファが言った。
リュ・シファ:
「人間には、とても不思議な習慣があります。」
「未来を心配して、現在を使う。」
「未来の幸福のために働いて、現在の幸福を後回しにする。」
「そして、ようやく時間ができたころには、以前持っていた何かがなくなっている。」
司会が静かに言った。
司会:
「時間はできた。でも子どもは家にいない。」
「お金はできた。でも親は年を取った。」
「仕事は落ち着いた。でも身体が昔ほど動かない。」
誰もすぐには答えなかった。
リュ・シファ:
「だからといって、若い頃に仕事をしなければよかった、という話ではありません。」
司会:
「そうですよね。」
リュ・シファ:
「未来のために準備することも人生です。」
「ただ……。」
「未来のために生きることと、未来まで生きることを延期することは違います。」
その言葉のあと、長い沈黙があった。
やがてクリスティンが言った。
クリスティン・ネフ:
「ここでも、自分に厳しくなりすぎないことが大切です。」
司会:
「どういう意味ですか?」
クリスティン・ネフ:
「今この話を聞いて、『私は人生を無駄にしてきた』と思う人がいるかもしれません。」
司会の顔から笑みが消えた。
クリスティン・ネフ:
「『子どもが小さいとき、もっと一緒にいればよかった。』」
「『親にもっと電話すればよかった。』」
「『仕事ばかりしなければよかった。』」
「『もっと人生を楽しめばよかった。』」
司会が静かに言った。
司会:
「ありますね。」
クリスティン・ネフ:
「でも、過去の自分を、今の自分が持っている知恵で裁かないことです。」
司会は彼女を見る。
クリスティン・ネフ:
「その頃のあなたには、その頃の心配があった。」
「その頃の責任があった。」
「その頃の知識しかなかった。」
「今だから見えるものがあります。」
司会:
「では、後悔しても意味がない?」
クリスティン・ネフ:
「いいえ。」
「後悔には使い道があります。」
司会:
「どんな?」
ジョージが先に答えた。
「失って学んだことを、まだ失っていないものに使う。」
司会は少し驚いて彼を見る。
Topic 1から続いてきた会話の中で、何度か現れた言葉だった。
クリスティン・ネフ:
「過去を罰するためではなく、現在を見るために後悔を使う。」
司会は写真をもう一度見た。
司会:
「それなら……。」
「子どもが小さかった時間は戻らない。」
「でも、大人になった子どもはいるかもしれない。」
クリスティン・ネフ:
「はい。」
司会:
「若かった頃の親は戻らない。」
「でも、今まだ電話できる親がいるかもしれない。」
クリスティン・ネフ:
「そうです。」
司会:
「昔の健康は戻らないかもしれない。」
「でも今日できることはある。」
ロバートがうなずいた。
司会:
「過去に戻ることばかり考えていたら、今度は今日まで失うことになる。」
誰も何も言わなかった。
午後の日差しが湖の水面に広がっていた。
司会は突然、ロバートに尋ねた。
司会:
「一つ実験していいですか?」
ロバート・エモンズ:
「どうぞ。」
司会:
「この場にいる全員に聞きたい。」
「今この瞬間にあるもので、いつか失ったら恋しくなるものを一つだけ挙げてください。」
最初にジョージが答えた。
ジョージ・ボナーノ:
「誰かと話せる時間。」
クリスティン。
クリスティン・ネフ:
「自分の身体で歩けること。」
ロバート。
ロバート・エモンズ:
「普通の朝。」
リュ・シファは湖を見た。
リュ・シファ:
「まだ名前のついていない今日。」
司会が笑った。
司会:
「詩人はずるいですね。」
みんなが笑った。
リュ・シファ:
「では、あなたは?」
司会はしばらく考えた。
そして答えた。
司会:
「まだ電話できる人がいること。」
笑い声が消えた。
しばらくして司会が言った。
司会:
「でも、毎日こんなことを考えながら生きるのは無理ですよね。」
「朝起きて、『このコーヒーも最後かもしれない』。」
「犬を見て、『この散歩も最後かもしれない』。」
「電話が鳴って、『この電話も最後かもしれない』。」
「そんなことをしていたら、疲れてしまう。」
リュ・シファが笑った。
リュ・シファ:
「だから、毎日すべてをありがたがる必要はないと思います。」
司会:
「では、どうすればいい?」
リュ・シファ:
「時々、目を覚ます。」
司会:
「時々?」
リュ・シファ:
「ええ。」
「人生の全部を意識して生きることなどできません。」
「忘れる。」
「忙しくなる。」
「腹を立てる。」
「当たり前になる。」
「そして、ときどき思い出す。」
「ああ、私は今、自分の人生の中にいる。」
司会はその言葉を聞いて、しばらく湖を見ていた。
そして、ゆっくり言った。
司会:
「もしかすると、人生を愛するというのは……。」
「毎日人生を好きでいることではないのかもしれませんね。」
リュ・シファが彼を見る。
司会:
「嫌な日もある。」
「悲しい日もある。」
「何もありがたいと思えない日もある。」
「それでも……。」
「自分の人生が起きている場所に、時々ちゃんと戻ってくる。」
ロバートが静かにうなずいた。
そのとき、少し離れた場所で会話を聞いていたケネス・パーガメントが口を開いた。
ケネス・パーガメント:
「でも、人間が現在に戻ることが最も難しくなるのは、いつでしょう。」
司会が振り返る。
司会:
「苦しいとき?」
ケネス・パーガメント:
「そうです。」
「人生が理解できなくなったとき。」
「努力しても報われなかったとき。」
「愛する人を失ったとき。」
「医師から望んでいなかった言葉を聞いたとき。」
「自分ではどうすることもできない出来事に出会ったとき。」
司会は黙っている。
ケネス・パーガメント:
「そんなとき、人間は単に『どうすればいい?』とは聞きません。」
少し間を置いた。
「なぜ?」
「と聞き始めます。」
司会の表情が変わった。
ケネス・パーガメント:
「なぜ私なのか。」
「なぜこの人なのか。」
「なぜこんなことが起きたのか。」
「なぜ祈ったのに何も変わらなかったのか。」
そして静かに続けた。
「神は、どこにいるのか。」
湖の上を風が渡っていった。
さっきまで暖かかった午後の光が、少しずつ長い影を作り始めていた。
司会は手に持っていた写真を閉じるように胸元へ寄せた。
そして会話は、
Topic 4
「苦しみの中で、人はなぜ神と意味を求めるのか?」
へと続いていった。
Topic 4:苦しみの中で、人はなぜ神と意味を求めるのか?

午後の光は、少しずつ傾き始めていた。
湖の水面には長い影が伸び、風が木々の葉を揺らしている。
ケネス・パーガメントが静かに言った。
ケネス・パーガメント:
「人生が理解できなくなったとき、人間は『どうすればいい?』だけではなく、『なぜ?』と聞き始めます。」
司会は写真を胸元に抱えたまま、彼を見る。
司会:
「なぜ私なのか。」
「なぜこの人なのか。」
「なぜこんなことが起きたのか。」
そして少し間を置いた。
司会:
「神は、どこにいるのか。」
誰もすぐには答えなかった。
司会:
「不思議ですよね。」
「人生が順調なときには、神についてあまり考えなかった人でも、病気になったり、誰かを失ったりすると急に祈り始めることがある。」
「なぜなんでしょう。」
ケネス・パーガメント:
「人は、自分の力だけではどうにもならないものに出会ったとき、より大きな意味の枠組みを求めることがあります。」
司会:
「意味の枠組み?」
ケネス・パーガメント:
「はい。」
「何のために生きるのか。」
「なぜ苦しみがあるのか。」
「死とは何か。」
「自分は一人なのか。」
「この出来事に何か意味があるのか。」
「こうした問いは、日常が安定しているときには背景に隠れていることがあります。」
「でも大きな苦しみが起きると、突然前に出てくる。」
司会:
「それが宗教になる?」
ケネス・パーガメント:
「宗教になる人もいます。」
「祈りになる人もいる。」
「共同体に戻る人もいる。」
「自然の中に行く人もいる。」
「哲学を読む人もいる。」
「詩を読む人もいる。」
「誰かに話す人もいる。」
司会はリュ・シファを見る。
司会:
「それで、この本なんですね。」
リュ・シファは静かにうなずいた。
司会:
「でも、一つ目の質問です。」
「人間はなぜ、苦しむと『意味』を必要とするのでしょう?」
アーヴィン・ヤーロムが、それまで聞いていた場所からゆっくり口を開いた。
アーヴィン・ヤーロム:
「苦しみそのものが辛いのはもちろんです。」
「ただ、人間にとってさらに辛いことがあります。」
司会:
「何ですか?」
アーヴィン・ヤーロム:
「その苦しみが、何のためなのか全く分からないことです。」
司会は黙って聞く。
アーヴィン・ヤーロム:
「人間は、自分の人生を一つの物語として理解しようとします。」
「過去に何があった。」
「今ここにいる。」
「これからどこへ行く。」
「その流れが突然切れると、人は混乱します。」
司会:
「たとえば?」
アーヴィン・ヤーロム:
「健康だった人が突然、重い病気を告げられる。」
「家族を大切にしていた人が、大切な家族を失う。」
「正直に生きてきた人が、理不尽な出来事に遭う。」
「すると、それまで自分が信じていた人生の物語が崩れる。」
司会:
「だから『なぜ』と聞く。」
アーヴィン・ヤーロム:
「そうです。」
リュ・シファが口を開いた。
リュ・シファ:
「詩にも、その役割があると思います。」
司会:
「答えをくれる?」
リュ・シファ:
「必ずしも。」
「むしろ、答えられない問いを持つための言葉をくれることがあります。」
司会が少し驚く。
司会:
「答えではなく、問いを持つための言葉?」
リュ・シファ:
「はい。」
「言葉にできなかった痛みを言葉にする。」
「自分だけではないと気づく。」
「何百年も前の人も、同じ問いを持っていたと知る。」
「それだけで、人は少し孤独ではなくなることがあります。」
司会は少し考えた。
司会:
「でも、意味を見つけることって、時々危険ではありませんか?」
ケネスが彼を見る。
司会:
「たとえば、誰かが病気になった。」
「すると周りが言う。」
「きっとこの病気には意味があります。」
「あるいは、家族を失った人に。」
「すべて神の計画です。」
司会の表情が厳しくなる。
司会:
「それ、本当に優しい言葉なんでしょうか?」
ケネスはすぐには答えなかった。
ケネス・パーガメント:
「場合によっては、その人を支えることもあります。」
「その人自身が信じているなら。」
「自分の信仰の中で、その言葉が支えになるなら。」
「でも、外から押しつけられると、別のことが起きることがあります。」
司会:
「どんなことですか?」
ケネス・パーガメント:
「『では、神はなぜ私にこんなことをしたのか』。」
「『私は何か悪いことをしたのか』。」
「『祈りが足りなかったのか』。」
「『信仰が弱かったのか』。」
「『神に見捨てられたのか』。」
司会は静かにうなずいた。
ケネス・パーガメント:
「宗教は人を支えることがあります。」
「でも宗教的な葛藤が、人をさらに苦しませることもあります。」
司会:
「では二つ目の質問です。」
「『神には計画がある』という言葉は、慰めなのか、それとも傷になることもあるのか?」
アーヴィンが少し身を乗り出した。
アーヴィン・ヤーロム:
「私は、答えを急ぎすぎることを心配します。」
司会:
「答えを急ぎすぎる?」
アーヴィン・ヤーロム:
「人が深く苦しんでいるとき、周りの人は沈黙に耐えられないことがあります。」
「だから何か意味のあることを言おうとする。」
「でも、その言葉は、苦しんでいる本人のためというより、話す側が自分の不安を減らすためであることもあります。」
司会は少し驚いた。
司会:
「慰めているつもりで、自分を慰めている?」
アーヴィン・ヤーロム:
「そういう場合もあります。」
リュ・シファが続けた。
リュ・シファ:
「詩も同じだと思います。」
司会:
「詩も?」
リュ・シファ:
「美しい言葉は、時々危険です。」
司会が彼を見る。
リュ・シファ:
「美しいからこそ、本当に苦しんでいる人の痛みを簡単に包んでしまうことがある。」
「でも、包んだことと理解したことは同じではありません。」
司会は本を見た。
司会:
「この本のタイトルも?」
リュ・シファは少し笑った。
リュ・シファ:
「だからTopic 1で、あれだけ疑ってもらったのでしょう。」
司会も笑った。
司会:
「では、本当に苦しんでいる人の隣では、何を言えばいいんでしょう。」
クリスティン・ネフが静かに答える。
クリスティン・ネフ:
「何も言わないという選択もあります。」
司会:
「沈黙?」
クリスティン・ネフ:
「はい。」
「『分からない。』」
「『でも、ここにいる。』」
「それだけのほうがいい時があります。」
司会は静かに繰り返した。
「分からない。でも、ここにいる。」
リュ・シファがうなずいた。
リュ・シファ:
「それは、とても深い祈りに近いこともあると思います。」
司会はそこで少し表情を変えた。
司会:
「神に怒ってもいいのでしょうか?」
ケネスはすぐに答えた。
ケネス・パーガメント:
「そういうことは起こります。」
司会:
「それは信仰がないということ?」
ケネス・パーガメント:
「必ずしもそうではありません。」
「むしろ、神との関係を本気で持っているからこそ怒る人もいます。」
司会は少し考えた。
司会:
「どうして助けてくれなかったんだ。」
「なぜこの人を連れていったんだ。」
「なぜ祈ったのに何も変わらなかったんだ。」
ケネス・パーガメント:
「そうです。」
司会:
「そんな祈りでも祈りなんですか?」
ケネス・パーガメント:
「私は、そう考えます。」
リュ・シファが静かに加えた。
リュ・シファ:
「本当に近い関係なら、感謝だけではないでしょう。」
「怒りもある。」
「疑いもある。」
「沈黙もある。」
「それでも関係が続いていることがあります。」
アーヴィンが司会に尋ねた。
アーヴィン・ヤーロム:
「ところで、あなたは今、『神』という言葉を使っています。」
司会:
「はい。」
アーヴィン・ヤーロム:
「もし神を信じていない人だったら、この問いはどうなるでしょう。」
司会は少し考えた。
司会:
「『人生には意味があるのか』になる?」
アーヴィン・ヤーロム:
「そうかもしれません。」
司会:
「でも、神を信じない人でも、家族を大切にしたり、自然に感動したり、誰かのために犠牲になったりする。」
アーヴィン・ヤーロム:
「もちろんです。」
司会:
「それもSpiritualと言える?」
ケネスが答えた。
ケネス・パーガメント:
「人によります。」
「宗教という言葉を使う人もいる。」
「Spiritualityという言葉を使う人もいる。」
「どちらも使わない人もいる。」
「大切なのは、その人が人生の中で何を神聖なものとして扱っているかです。」
司会:
「神聖なもの?」
ケネス・パーガメント:
「何としても守りたいもの。」
「深い意味を感じるもの。」
「自分より大きいと感じるもの。」
「人によって、それは神かもしれない。」
「家族かもしれない。」
「自然かもしれない。」
「真理かもしれない。」
「愛かもしれない。」
司会は少し笑った。
司会:
「そうすると、宗教が違っても話せる部分が出てきますね。」
リュ・シファがうなずいた。
リュ・シファ:
「私はそこに興味があります。」
司会:
「77篇を選んだ理由も?」
リュ・シファ:
「同じ答えを並べたかったわけではありません。」
「違う時代。」
「違う国。」
「違う宗教。」
「違う人生。」
「でも、不思議なくらい似た問いが現れる。」
司会が言う。
司会:
「愛。」
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「死。」
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「孤独。」
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「赦し。」
リュ・シファ:
「はい。」
司会:
「意味。」
リュ・シファ:
「そして、どう生きるか。」
司会:
「では三つ目の質問です。」
「宗教も文化も違う人々が、なぜ似た人生の問いへたどり着くのでしょう?」
アーヴィンが答えた。
アーヴィン・ヤーロム:
「人間であることの条件が、ある部分では共通しているからでしょう。」
「私たちは死ぬ。」
「大切な人を失う。」
「一人になることがある。」
「自由に選ばなければならない。」
「人生の意味を自分で引き受けなければならない。」
「宗教的な答えは違っても、問いの根は似ています。」
ケネスが少し反論する。
ケネス・パーガメント:
「ただ、『全部同じ』と言ってしまうのも危険です。」
司会が振り返る。
ケネス・パーガメント:
「宗教は、それぞれ本当に違うことを教えています。」
「神について。」
「救いについて。」
「死後について。」
「人間とは何かについて。」
「その違いを消してしまう必要はありません。」
司会がうなずく。
司会:
「違う答えのまま、同じ問いの前に座れる。」
ケネス・パーガメント:
「そうです。」
リュ・シファが微笑んだ。
リュ・シファ:
「私はそれが好きです。」
「同じ答えを持っているからつながるのではなく、同じ問いを持っているからつながる。」
夕方の光がさらに低くなった。
湖の向こうの空が、ゆっくり橙色に変わり始めていた。
司会はしばらく黙ってから言った。
司会:
「でも、一つ怖いことがあります。」
アーヴィン・ヤーロム:
「何でしょう。」
司会:
「人生の意味を探し続けて、人生そのものを生き忘れることです。」
アーヴィンが少し笑った。
アーヴィン・ヤーロム:
「その可能性はあります。」
司会:
「神の計画が分かるまで。」
「自分の使命が分かるまで。」
「なぜ苦しんだのか分かるまで。」
「本当の自分が分かるまで。」
「全部分かってから生きようとする。」
リュ・シファが静かに言った。
リュ・シファ:
「それもまた、『いつか』ですね。」
司会はTopic 3を思い出して笑った。
司会:
「また出てきましたね。」
「いつか。」
アーヴィンが司会を見る。
アーヴィン・ヤーロム:
「では、逆に聞きましょう。」
司会:
「何をですか?」
アーヴィン・ヤーロム:
「人生の意味が完全に分かる日を待っているとします。」
「その日まで、人生を始めないのですか?」
司会は黙った。
アーヴィン・ヤーロム:
「死について完全に納得できるまで。」
「神について完全に分かるまで。」
「過去の理由が全部分かるまで。」
「傷が全部治るまで。」
「悲しみが全部消えるまで。」
少し間を置く。
「その日が来なかったら?」
湖の向こうで、太陽が山の近くまで下がっていた。
司会は本を閉じた。
そして、静かに言った。
司会:
「もしかすると、人生の意味を見つけることより先に……。」
「人生を生きなければいけないのかもしれませんね。」
アーヴィンは答えなかった。
代わりに、もう一つ問いを置いた。
「では、人間はなぜ、自分の人生を生きることを『いつか』まで延期してしまうのでしょう?」
夕方の空が、少しずつ夜へ変わり始めていた。
そして会話は、
Topic 5
「なぜ人は、自分の人生を生きることを『いつか』まで延期するのか?」
へと続いていった。
Topic 5:なぜ人は、自分の人生を生きることを「いつか」まで延期するのか?

夕方の湖は、朝とはまるで違う色になっていた。
水面には橙色の光が残り、空の高いところから少しずつ青が深くなっている。
アーヴィン・ヤーロムの問いが、その場に残っていた。
「では、人間はなぜ、自分の人生を生きることを『いつか』まで延期してしまうのでしょう?」
司会はすぐには答えなかった。
しばらく湖を見ていた。
そして、小さく笑った。
司会:
「私も、ずっとそうしてきた気がします。」
アーヴィン・ヤーロム:
「どんなふうに?」
司会:
「若い頃は……。」
「学校を卒業したら。」
「卒業したら……。」
「仕事が安定したら。」
「仕事が安定したら……。」
「もっとお金ができたら。」
「結婚したら。」
「子どもが大きくなったら。」
「家のローンが落ち着いたら。」
「仕事が忙しくなくなったら。」
「退職したら。」
少し笑う。
司会:
「ずっと未来に、何か大きな入口があるような気がしていたんです。」
リュ・シファ:
「その入口の向こうには何があると思っていましたか?」
司会は考えた。
司会:
「本当の人生。」
誰も笑わなかった。
司会:
「でも、こうして振り返ると変ですよね。」
「人生を始める準備をしている間にも、人生は進んでいた。」
アーヴィンがうなずく。
司会:
「子どもは大きくなった。」
「親は年を取った。」
「自分の身体も変わった。」
「友人と会う回数も減った。」
「そしてある日、気づく。」
『あれ? これが人生だったのか。』
リュ・シファが静かに言った。
リュ・シファ:
「たぶん、人生には始業ベルが鳴らないのでしょう。」
司会が少し笑った。
リュ・シファ:
「誰も『今日から本番です』とは教えてくれない。」
「普通の火曜日も。」
「疲れた木曜日も。」
「何も起きなかった日曜日も。」
「すでに本番です。」
司会は全員を見る。
司会:
「では、一つ目の質問です。」
「私たちは、いったい何を待っているのでしょう?」
ロバート・エモンズが答える。
ロバート・エモンズ:
「条件が整うことではないでしょうか。」
司会:
「条件?」
ロバート・エモンズ:
「もう少しお金があれば。」
「もう少し健康なら。」
「もう少し自由なら。」
「家族の問題が解決したら。」
「仕事が落ち着いたら。」
「不安がなくなったら。」
司会が言う。
司会:
「つまり、人生を楽しむための許可を、条件に渡している。」
ロバート・エモンズ:
「そういうことがあります。」
クリスティン・ネフが加わる。
クリスティン・ネフ:
「完璧な自分を待っている人もいます。」
司会:
「完璧な自分?」
クリスティン・ネフ:
「もっと自信がついたら。」
「もっと痩せたら。」
「もっと成功したら。」
「過去を完全に許せたら。」
「傷が全部治ったら。」
「そのとき人を愛そう。」
「そのとき旅行しよう。」
「そのとき自分を好きになろう。」
司会は苦笑した。
司会:
「それ、かなり時間がかかりそうですね。」
クリスティン・ネフ:
「そして、完成しないかもしれません。」
司会:
「では、未完成のまま生きる?」
クリスティン・ネフ:
「私たちは最初からずっと、未完成のまま生きています。」
スー・ジョンソンが静かに言った。
スー・ジョンソン:
「愛についても同じことがあります。」
司会が彼女を見る。
スー・ジョンソン:
「関係が完全に安全になってから心を開こう。」
「相手が絶対に自分を傷つけないと分かってから信じよう。」
「絶対に失わないと分かってから愛そう。」
司会:
「でも、それは無理ですね。」
スー・ジョンソン:
「はい。」
「愛には、不確実さがあります。」
「だから怖い。」
「でも、その不確実さを全部消そうとすると、愛そのものも遠ざかることがあります。」
司会はTopic 1を思い出した。
司会:
「傷つかない人生を選ぼうとすると、愛さない人生に近づくこともある。」
スーは静かにうなずいた。
アーヴィンが司会に尋ねた。
アーヴィン・ヤーロム:
「では、なぜ条件を待つのでしょう?」
司会は少し考える。
司会:
「怖いから?」
アーヴィン・ヤーロム:
「何が?」
司会:
「本当に生き始めて、それでも幸せになれなかったら。」
アーヴィンは黙っている。
司会は続けた。
司会:
「『いつかやる』と言っている間は、まだ可能性があります。」
「本を書きたい。」
「いつか書く。」
「会いたい人がいる。」
「いつか会う。」
「行きたい場所がある。」
「いつか行く。」
「謝りたい人がいる。」
「いつか謝る。」
少し間を置いた。
司会:
「でも本当にやってみたら、うまくいかないかもしれない。」
アーヴィン・ヤーロム:
「そうです。」
司会:
「だから『いつか』は、安全なんですね。」
アーヴィン・ヤーロム:
「ある意味では。」
「『いつか』は、夢を失敗から守ることができます。」
司会が静かになる。
アーヴィン・ヤーロム:
「でも同時に、人生からも遠ざけます。」
リュ・シファが湖を見ながら言った。
リュ・シファ:
「まだ咲いていない花は、枯れません。」
司会が彼を見る。
リュ・シファ:
「でも、咲きもしません。」
しばらく誰も話さなかった。
夕方の風が少し冷たくなってきた。
司会が口を開く。
司会:
「では、二つ目の質問です。」
「もし人生が残り一年だと分かったら、何を変えるのでしょう?」
ジョージ・ボナーノが少し表情を変えた。
ジョージ・ボナーノ:
「一年という数字は、人によって重すぎる質問にもなりますね。」
司会:
「そうですね。」
ジョージ・ボナーノ:
「でも、優先順位を見る問いとしては興味深い。」
司会がうなずく。
司会:
「では、みんなに聞いてみたいです。」
「残り一年だったら、何をやめますか?」
最初にロバートが答えた。
ロバート・エモンズ:
「価値のない比較を減らします。」
司会:
「人と比べること?」
ロバート・エモンズ:
「はい。」
「誰が自分より成功しているか。」
「誰の家が大きいか。」
「誰の人生がうまくいっているように見えるか。」
「一年しかないなら、それに多くの時間を使いたくありません。」
クリスティン・ネフ:
「私は、自分を責め続ける時間を減らしたいです。」
司会:
「過去の失敗?」
クリスティン・ネフ:
「はい。」
「謝る必要があるなら謝る。」
「修復できるなら修復する。」
「でも、それが終わったあとも自分を罰し続けることに、残り時間を使いたくない。」
スー・ジョンソン:
「私は、言っていない言葉を減らしたいです。」
司会:
「たとえば?」
スー・ジョンソン:
「愛している。」
「寂しい。」
「会いたい。」
「助けてほしい。」
「ごめんなさい。」
「ありがとう。」
司会が少し笑う。
司会:
「短い言葉ばかりですね。」
スー・ジョンソン:
「大切な言葉は、意外と短いです。」
ケネス・パーガメント:
「私は、答えが出ない問いを抱えたままでも生きると思います。」
司会:
「神についても?」
ケネス・パーガメント:
「はい。」
「一年しかないからといって、神について全部分かるわけではありません。」
「でも、全部分かるまで祈らない、愛さない、生きないという必要もない。」
司会はアーヴィンを見る。
司会:
「あなたは?」
アーヴィン・ヤーロム:
「私は、重要ではないことを重要だと思い込む時間を減らしたいですね。」
司会:
「かなり多そうですね。」
アーヴィンが笑った。
アーヴィン・ヤーロム:
「人間は、それが得意です。」
最後に司会はリュ・シファを見る。
司会:
「リュ・シファさんは?」
リュ・シファは少し考えた。
リュ・シファ:
「急いで何か特別なことを増やすより、もう少しゆっくり見ると思います。」
司会:
「見る?」
リュ・シファ:
「一緒にいる人の顔。」
「食べているもの。」
「道の木。」
「夕方の空。」
「自分がもう何度も見たと思っているもの。」
司会は少し驚いた。
司会:
「世界一周とかではないんですね。」
リュ・シファが笑う。
リュ・シファ:
「してもいいでしょう。」
「でも、人生の価値を証明するために大きなことをする必要はないと思います。」
司会はその言葉を聞いて、少し考えた。
司会:
「Bucket Listってありますよね。」
「死ぬまでに100個のことをする。」
「スカイダイビング。」
「世界旅行。」
「オーロラを見る。」
「有名な場所に行く。」
リュ・シファ:
「素晴らしいことです。」
司会:
「でも、残り一年と言われたら、逆に全部やらなければいけない気がして疲れる人もいそうです。」
ジョージ・ボナーノ:
「それも一つのプレッシャーになります。」
司会:
「『最高の一年にしなければ』。」
クリスティンがうなずく。
クリスティン・ネフ:
「普通の一日にも価値があります。」
司会は言った。
司会:
「朝起きる。」
「コーヒーを飲む。」
「犬と歩く。」
「家族と食事する。」
「好きなテレビを見る。」
「眠る。」
クリスティン・ネフ:
「それでも一日です。」
リュ・シファ:
「そして、それも人生です。」
湖の向こうで太陽が少しずつ沈んでいく。
司会は突然、全員に聞いた。
司会:
「もう一つ。」
「もし残り一年なら、誰に会いますか?」
誰もすぐには答えなかった。
司会が続ける。
司会:
「疎遠になった家族。」
「昔の友人。」
「喧嘩した相手。」
「ずっと許せなかった人。」
「会いに行くべきでしょうか?」
クリスティンが最初に答えた。
クリスティン・ネフ:
「必ずしも。」
司会が彼女を見る。
クリスティン・ネフ:
「時間が有限だからといって、危険な関係へ戻る義務はありません。」
スーも続ける。
スー・ジョンソン:
「赦しと再接近は別です。」
司会:
「Topic 1で話しましたね。」
スー・ジョンソン:
「はい。」
「誰かを憎み続けるのをやめることと、その人をもう一度自分の生活へ入れることは同じではありません。」
司会は考えた。
司会:
「では、こういうこともありますね。」
「もうあなたを憎むために、私の残り時間を使いません。」
クリスティンが静かにうなずいた。
クリスティン・ネフ:
「それだけでも、一つの自由かもしれません。」
少ししてアーヴィンが尋ねた。
アーヴィン・ヤーロム:
「ところで、なぜ一年なのですか?」
司会が笑う。
司会:
「あなたが実存心理学者だから、もっと厳しい質問が来そうですね。」
アーヴィンも笑った。
アーヴィン・ヤーロム:
「一年と分かる人は少ないでしょう。」
司会の表情が変わる。
アーヴィン・ヤーロム:
「私たちは、自分が死ぬことは知っています。」
「でも、日付は知りません。」
「だから、死は知識としては存在する。」
「でも、日常では存在しないかのように暮らせる。」
司会:
「確かに。」
司会は少し前へ歩いた。
夕陽が彼の顔を横から照らしていた。
司会:
「では、三つ目の質問です。」
「死ぬと知っているのに、なぜ私たちは永遠に生きるように暮らすのでしょう?」
アーヴィンは少し間を置いて答えた。
アーヴィン・ヤーロム:
「常に死を意識していたら、人間は生活できません。」
「ある程度忘れることは必要です。」
司会:
「では、忘れるのは悪くない?」
アーヴィン・ヤーロム:
「悪くありません。」
「問題は、完全に忘れてしまうことです。」
「自分には無限の時間があるように思い始める。」
司会はつぶやく。
司会:
「あとで電話すればいい。」
「来年会えばいい。」
「いつか旅行すればいい。」
「そのうち謝ればいい。」
「もう少し落ち着いたら、一緒に過ごそう。」
アーヴィンが聞く。
アーヴィン・ヤーロム:
「そして?」
司会は湖を見る。
司会:
「その『あとで』が来ないことがある。」
長い沈黙があった。
やがてジョージが言った。
ジョージ・ボナーノ:
「でも、ここでも恐怖だけを使わないほうがいいと思います。」
司会:
「どういうことですか?」
ジョージ・ボナーノ:
「『いつ死ぬか分からないから、今すぐ全部やれ』と言われても、人は疲れます。」
司会が笑う。
司会:
「またBucket Listですね。」
ジョージ・ボナーノ:
「ええ。」
「死を意識する目的は、常に急ぐことではないと思います。」
アーヴィンがうなずいた。
アーヴィン・ヤーロム:
「むしろ、優先順位を明らかにすることです。」
司会が彼を見る。
アーヴィン・ヤーロム:
「死が教えるのは……。」
少し間を置いた。
「急げ、ではなく、優先順位を間違えるな。」
その言葉のあと、全員が静かになった。
湖の向こうで、太陽がほとんど沈みかけている。
司会は朝からの会話を思い出していた。
Topic 1。
傷ついたあと、もう一度愛せるのか。
Topic 2。
悲しみは乗り越えるものなのか。
Topic 3。
なぜ「今」を見失うのか。
Topic 4。
なぜ苦しみの中で神と意味を求めるのか。
そして今。
残りの人生をどう生きるのか。
司会はゆっくり本を手に取った。
表紙を見た。
『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』
司会:
「朝、このタイトルを見たとき、少し怖かったんです。」
リュ・シファが彼を見る。
司会:
「傷ついたことを忘れろと言われているように感じた。」
「裏切られても。」
「失っても。」
「泣いても。」
「全部忘れて、もう一度無防備に愛しなさい。」
「そんなことを言われているように。」
リュ・シファ:
「今は?」
司会はしばらく答えなかった。
司会:
「今は、少し違って聞こえます。」
「傷が全部治るまで待たなくてもいい。」
「悲しみが全部消えるまで待たなくてもいい。」
「人生の意味が全部分かるまで待たなくてもいい。」
「神について全部理解するまで待たなくてもいい。」
「十分なお金ができるまで待たなくてもいい。」
「自分が完璧になるまで待たなくてもいい。」
司会は本を見つめる。
司会:
「そうやって待っているうちに、人生そのものが終わってしまうかもしれない。」
スー・ジョンソンが静かに言った。
スー・ジョンソン:
「愛を延期しない。」
クリスティン。
クリスティン・ネフ:
「自分への優しさを延期しない。」
ジョージ。
ジョージ・ボナーノ:
「悲しみがなくなる日まで、生きることを延期しない。」
ロバート。
ロバート・エモンズ:
「今あるものを見ることを延期しない。」
ケネス。
ケネス・パーガメント:
「答えがすべて分かる日まで、意味ある人生を延期しない。」
アーヴィン。
アーヴィン・ヤーロム:
「そして、死が近づいてから初めて生きようとしない。」
最後に全員がリュ・シファを見る。
リュ・シファはすぐには話さなかった。
空はかなり暗くなり、湖面には最後の光だけが残っている。
リュ・シファ:
「私たちは、傷つかなかった人になることはできません。」
司会は黙って聞いた。
リュ・シファ:
「失わなかった人にもなれない。」
「後悔しなかった人にも。」
「間違えなかった人にも。」
「いつか死なない人にもなれない。」
少し間を置いた。
リュ・シファ:
「でも……。」
「傷がなくなる日を待ってから、人生を愛そうとしないことはできます。」
司会の表情が変わった。
リュ・シファは続けた。
「愛しなさい。一度も傷ついたことがないかのように。」
そして、少しだけ言葉を足した。
「けれど、傷ついた自分を置き去りにしないように。」
湖の向こうに、最後の光が消えた。
誰もすぐには立ち上がらなかった。
司会は本を閉じた。
今日一日で、答えが全部見つかったわけではない。
神についても。
死についても。
悲しみについても。
愛についても。
まだ分からないことはたくさんある。
でも、それでいいような気がした。
司会は最後に、誰にともなく尋ねた。
「あなたが『いつか』始めようと思っている人生の中で、今日から始められるものは何ですか?」
誰も答えなかった。
その問いは、湖のそばにいる人たちではなく、
この会話を読んでいる人へ渡されたまま、
静かに残った。
最後に

この対話を始めたとき、『愛しなさい、一度も傷ついたことがないかのように』という言葉は、
「傷を忘れて、もう一度愛しなさい」
という意味にも聞こえました。
しかし、心理学、悲嘆研究、宗教、実存思想、そしてリュ・シファが集めた詩の世界を通って戻ってくると、違う読み方が見えてきます。
傷が全部治るまで待たなくてもいい。
悲しみが消えるまで待たなくてもいい。
人生の意味が完全に分かるまで待たなくてもいい。
神について答えが出るまで待たなくてもいい。
自分が完璧になるまで待たなくてもいい。
人生には明るい糸だけではなく、暗い糸もあります。愛した記憶、失った人、後悔した選択、普通の夕食、何気ない電話、笑った日、泣いた日。それらが一緒になって、一人の人生という模様を作っていきます。
だからHealingとは、傷が消えることではなく、
傷があっても、人生全体が傷だけではなくなること
なのかもしれません。
そして死を意識することが教えるのも、「急いで全部やりなさい」ということではありません。
大切ではないものに、大切な時間を使いすぎないこと。
私たちは人生が始まるのを待っている間にも、すでに人生を生きています。
もしかすると、この本から最後に持ち帰る問いは、とてもシンプルです。
あなたが「いつか」始めようと思っている人生の中で、今日から始められるものは何ですか?
Short Bios:
リュ・シファ(류시화)
韓国の詩人、作家、翻訳者。本書では世界各地、さまざまな時代の詩を集め、人間の傷、愛、喪失、生、死を一冊の中で響き合わせています。
スー・ジョンソン(Sue Johnson)
臨床心理学者。Emotionally Focused Therapy(EFT)の発展で知られ、愛着、親密さ、傷ついた関係における信頼の回復を研究しました。
クリスティン・ネフ(Kristin Neff)
心理学者。セルフ・コンパッション研究の代表的人物。失敗や苦しみの中で、自分自身とどのように向き合うかを研究しています。
ジョージ・ボナーノ(George Bonanno)
心理学者。喪失、悲嘆、トラウマ、レジリエンス研究で知られ、人間の悲しみ方や回復の形には大きな個人差があることを研究しています。
ロバート・エモンズ(Robert Emmons)
心理学者。感謝と幸福について長年研究し、人間がすでに持っているものに気づくこととWell-beingの関係を探究しています。
ケネス・パーガメント(Kenneth Pargament)
心理学者。宗教、Spirituality、心理的copingの研究で知られ、苦しみの中で信仰や意味が人間にどのように働くかを研究しています。
アーヴィン・ヤーロム(Irvin Yalom)
精神科医、心理療法家、作家。死、自由、孤独、意味といった人間存在の根本的な問題を、実存心理療法の視点から探究してきました。
司会
特別な専門家ではなく、愛し、傷つき、失い、働き、家族と暮らし、いつの間にか人生の時間が有限であることを意識し始めた一人の人間。専門家の答えを聞くだけではなく、読者が本当に聞きたい疑問を彼らに投げかけます。

Leave a Reply